エンジンがかかりそうでかからない(A195)
クボタ・トラクタA195で、エンジンがかかりそうでかかりません。
燃料をフィルタ掃除して、確実にエア抜きしても始動しません。
バッテリ良好で、停止ソレノイドも正常です。
インジェクション・パイプを外した状態(左写真)でクランキングしてみても、「ピュッピュッピュッ」と3発とも正常に噴射します。
ここまでは異常ないようです。
次に噴射ノズルが正常に噴射されているか確認しますが、3発のうちどれが異常なのか判断します。
したがって、マフラとエキゾースト・マニホルドを外します。
ついでにバルブの動きも見たかったので、ヘッド・カバーも外します。
インジェクションパイプを元に戻し、この状態でクランキングします。
バルブの動作は正常ですが、何度クランキングしても真ん中だけ煙が出てきません。
これで、真ん中に問題がある事が分かります。
再度インジェクション・パイプを外し、真ん中の噴射ノズルを外します。
インジェクション・ノズルを外したこの状態で、インジェクション・パイプを取り付けクランキングしてみます。
正常に噴射されていました。
これでピストン・リングの破損による圧縮漏れが原因だと確信しました。
クランキング時に特に嫌な金属音は聞こえなかったので、クランクシャフト、コンロッド・メタル回りは大丈夫だろうと思いながら先に進みます。
外した噴射ノズルは元に戻し、シリンダ・ヘッドを外しにかかります。
シリンダ・ヘッドを固定している頭部14㎜のボルトを全て外します。
その前に、ロッカ・アームを外さなければいけません。
固定ナットを3本外したら、持ち上げるだけでロッカ・アーム・シャフトごと簡単に外れます。
グロー線も外しておきます。
他、ウォータ・ポンプからの冷却水ホースも外しておきます。
そして、プッシュ・ロッドを6本引き抜きます。
バルブ・ステム・エンド・キャップ(バルブ上の丸いキャップ)も6個全て外しておきます。
ロッドとキャップは、乗せてあるだけです。
固定ボルトを全て外したら、左写真のようになります。
噴射ノズルの上には、ゴミが入らないように適当にマスキング・テープで保護してあります。
バールを使いシリンダ・ヘッドを外します。
少し分離したら、後は手でゆっくりと持ち上げて取り外します。
真ん中のピストンの上だけ燃料で濡れたままです。
つまり、圧縮が無いというこです。
手でピストンを触るとぐらつきます。
確実にピストン・リングが破損している感触です。
こちらは、取り外したシリンダ・ヘッドです。
ヘッド・ガスケットの剥がれカスだけは、スクレーパで削ってきれいにしておきます。
オイルの通り道にはOリングが付いているので、無くさないように気を付けます。
接合面には、ヘッド・ガスケットと1つのOリングが取り付きます。
手でクランク・プーリを回してピストンを下げると、シリンダ・ボア内面には嫌な傷跡が出来ています。
致命的な感じもします。
ピストンを抜くには、オイル・パンを取り外す必要があります。
プロペラ・シャフトが邪魔になるので、ロール・ピンを抜いて外します。
左写真のように、プロペラ・シャフト・パイプを外しておいて行います。
ロール・ピンは前後(2箇所)にあるので、両方とも外します。
更に前輪車軸ケースが邪魔になるので、固定ボルト4本を外し前方へどけておきます。
もちろん、バッテリ下フレームあたりでジャッキ・アップしてあるので、エンジンが落ちることはありません。
オイル・パンの固定ボルトを全て外しオイル・パンを取り外そうとしたら、前輪車軸ケースの固定ボルト取付部に接触して外せません。
薄々そんな気はしていたのですが…。
つまり、エンジンとミッションを割らなければいけないということです。
接触してる部分を少し削ってやれば何とかなると思い、ディスク・グラインダで削りました。
邪道な方法ですが、少しだけの接触だったので少々削っても問題ないと思いました。
この時点で、シリンダ・ボアのボーリングをする予定がなかったためです。
途中で前項写真で少し見えているオイル・パン・フィルタを外す必要がありましたが、無事にオイル・パンを外すことが出来ました。
オイル・パン・フィルタにはOリングが付いているので、一緒に外しておきます。
頭部14㎜のボックスを使い、コンロッド・キャップの固定ボルト2本を外します。
コンロッド・キャップの向きを覚えてから、手でゆっくり取り外します。
コンロッド・キャップは固定ボルトを外すと同時に落ちてくることもあるので、固定ボルトを外しきるタイミングで一緒に外すのが良いでしょう。
クランクシャフトにコンロッド・キャップ側のコンロッド・メタルがくっ付いていたら、取り外しておきます。
コンロッドの大端部に木の棒をあてがい、その上をハンマで軽く叩いてピストンを少しづつ上に抜いていきます。
途中で、コンロッド側のコンロッド・メタルが落ちてきても気にせず叩きます。
ピストンは簡単に取り外せますが、下からの作業上どうしても油滴が落ちてくるので、目に入らないように気を付けて行います。
ピストンを取り外してみると、このように酷い状態です。
トップ・リングが折れています。
ピストンにも多くの傷が入っています。
このトラクターの使用時間は650H程ですが、エンジン・オイルを1~2回しか交換したことがないそうです。
まめに交換していれば、こうはならなかったと思います。
コンロッド・キャップの向きを間違えないように置きます。
シリンダに取り付けるピストンとコンロッドの向きが決まっているので、組み付け時に分かるようにしておきます。
クランクシャフト、コンロッド・メタル共に傷はなく、ひとまず安心です。
このままピストン、ピストン・リング、ヘッド・ガスケットだけ交換して組み付ければとりあえず直るでしょうが、出力は落ちるし確実な修理ではありません。
シリンダ・ボアをボーリングをするのが一番ですが、その場合ここからが本当の大掛かりな修理になります。
何故ならば、全て取り外しシリンダ・ブロック単体にしなければいけないからです。
左写真は、ヘッド・ガスケット接合面をきれいにしたところです。
ヘッド・ガスケットの剥がれカスは、掃除機で吸い取りながらスクレーパで削ってきれいにします。
油路はピンク・チューブなどを使いゴミが入らないようにします。
水路は最後にしっかりとコンプレッサでエア吹き掃除すれば良いので、そんなに気にする必要はありません。