クラッチ板交換(KL33) / 主変速ギア(L1-295)
クボタ・トラクタKL33で、クラッチ板の交換と推進軸のオイル漏れ修理です。
このトラクタの使用時間は1800Hくらいです。
エンジンとクラッチ・ハウジングを分離します。
邪魔になるエアコンのホースは、コンプレッサ、コンデンサ、レシーバをホースが繋がったまま外し横にどけておくので、ガスを抜く必要がありません。
また、キャビンは外さなくても出来ます。
分離の際、狭くて工具をまともにかけられない外し難いボルト(頭部17㎜)があるので、17㎜のメガネ・レンチを酸素アセチレン溶接を使って少し曲げる必要があります。
左写真のような工具が必要になります。
分離後、クラッチ・カバー(プレッシャ・プレート・アッシ)、クラッチ・ディスク、フライホイールを外したら、左写真のようにエンジン側のオイル・シールが見えます。
折角、エンジンとクラッチ・ハウジングを分離したので、このオイル・シールも交換しておきます。
ちなみに、この部分からのオイル漏れを今まで見た事がありませんが(いや、一度あったような…)、クラッチ・ハウジングの中が油でベタベタになっているので、交換しておけば間違いないという事です。
でも、エンジン・オイルの黒い汚れは見当たりませんね。
オイル・シールを外します。
大きめのマイナス・ドライバを使います。
マイナス・ドライバの先端をハンマを使って、オイル・シールの外周面に打ち込みます。
ケースのオイル・シール外周面との接合面に傷を付けないように、なるべく内側(オイル・シール外周面)に向けて打ち込みます。
一度で外そうとして無理に起こさず、位置を変えてはじわりじわりと起こして外していきます。
密着が凄く、なかなか苦労します。
オイル・シールを外したら、ケース回りに付着しているゴミや油分をきれいにウエスで拭きとっておきます。
新品のオイル・シールの外周面(はめあい部)、リップ回りにエンジン・オイルを薄く塗付します。
オイル・シールを外す時の密着具合の感触を考慮して、また硬いオイル・シールという事もあり、打ち込み時に外周面との摩擦でオイル・シールを痛めないために、外周面にもエンジン・オイルを塗布して入り易くしているのです。
新品のオイル・シール打ち込みます。
肉厚の平鋼をあてがって打ち込みました。
オイル・シールを打ち込んだら、再びウエスで全体を拭いてコンプレッサでエア吹きしてきれいにします。
フライホイールを外す前と同じ位置に取り付けます。
接合面に痕が残っているので分かります。
固定ボルト(頭部17㎜)は、対角線上にずらしながら締めていきます。
クラッチ・ディスクの中心を合わせるために、適当な金属の棒を使いました。
金属棒がやや細かったので、ビニール・テープを巻いてガタ付きを無くしました。
クラッチ・センタ・ツールを持っていないので、この方法で行います。
このようにクラッチ・ディスクを入れます。
金属棒が中心を合わせるガイド棒となるのです。
この作業を怠ると、エンジンとクラッチ・ハウジングのドッキングが上手くいきません。
出来るだけガタ付きが無くなるように、ビニール・テープで金属棒とクラッチ・ディスクのボス穴の隙間を無くしますが、限度があるので程々で構いません。
クラッチ・カバー(プレッシャ・プレート・アッシ)を取り付けます。
固定ボルト(頭部12㎜)は対角線上にずらしながら締めていくのですが、プレッシャ・プレートのバネが効いて反発しすぐに偏ってしまうので、半周~1周くらい回したら、ずらして次のボルトを締めます。
これを細かく繰り返します。
全て締め終わったら金属棒を抜き取ります。
クラッチ・ディスクのボスが取り付くクラッチ・シャフトにも当然オイル・シールがあります。
これは絶対に交換しておきます。
前述のエンジン側より重要です。
レリーズ・フォークとレリーズ・ベアリング・ホルダを繋いでいる2つのスナップ・ピンを外し、クラッチ・シャフト・ケースを固定している頭部12㎜のボルト4本を外します。
クラッチ・シャフト・ケースを取り外します。
クラッチ・シャフト・ケースには取り外し用のM6ボルトの取り付け穴があるので、左写真のように、適当な長めのM6ボルトを入れ、ボルトを回してクラッチ・シャフト・ケースを手前に押し出して外します。
取り外したクラッチ・シャフト・ケースです。
ケースを手に持ちシャフト頭部を角材に叩くように当てれば、クラッチ・シャフトは簡単に外れます。
オイル・シール交換の写真はありませんが、この部分のオイル・シール交換は難易度が低く簡単です。
今回も肝心なところの写真をいくつか撮り忘れていて、この先の写真がないのです。
クラッチ・シャフト・ケースとその接合面は、古い液体ガスケットや油分を取り除き、きれいに洗浄しておきます。
取り付ける時に液体ガスケットを塗付するためです。
クラッチ・シャフトと同じく重要な箇所が、このプロペラ・シャフト(推進軸)のオイル・シールです。
今回も、この部分からオイル漏れを起こしていたようです。
このトラクタは、クラッチ・ハウジングの中にプロペラ・シャフトのオイル・シールがあるので、クラッチ交換の際は必ず同時交換するべきだと思います。
スリーブとオイル・シールを取り外す前に、プロペラ・シャフトのスプライン先端からスリーブまでの出代、そしてクラッチ・ハウジング先端(接合面)からオイル・シールまでの寸法を測っておきます。
そうする事で、組み付ける時に打ち込み寸法確認の助けになります。
この機種のこの修理は何度か経験があり構造が分かっているので、何の躊躇いもなくプロペラ・シャフトを力を入れて引き抜きます。
ミッド・ケースの中でカップリングとスリーブが落ちるので、長いフレキシブル磁石で取り出します。
左写真は取り外したオイル・シールとスリーブですが、これはミッド・ケースの中で落ちたベアリングの奥にあるスリーブではなく、ベアリングとカラーの手前に取り付いていたものです。
弾力性が無くなっていたので簡単に外せました。
スリーブ1つに対し、オイル・シールが2つ連なって取り付く構造になっています。
このトラクタにはベアリングの奥側にも同じスリーブが取り付いていますが、これはオイル・シールと摺動する訳でもなく、ただ取り付いている、私にもよく分からないスリーブです。
当然、その同じスリーブも交換します。
ベアリングとプロペラ・シャフトの位置がずれないように、それぞれに止め輪がある訳でもないので、スリーブを使ってプロペラ・シャフトが前に動かないようにしているのかもしれません。
したがって、プロペラ・シャフトを組み付ける時は先にそのスリーブを元の取り付け位置より僅か(1㎜弱)手前に入れておいてから、プロペラ・シャフト先端にカップリングを入れたまま、カップリングを落とさずミッド・ケース奥のスプラインに差し込む必要があります。
その後、ベアリング、カラーの順に入れ、1つ目のオイル・シールとスリーブを同時入れします。
ベアリングを打ち込んだ時に、奥のスリーブが僅かに(1㎜弱)押し込まれて元の取り付け位置になる算段です。
また、何故オイル・シールとスリーブを同時入れするかというと、例えば先にオイル・シールを入れてからスリーブを打ち込んだ場合、オイル・シールのダスト・リップ部が内側に捲れ込む恐れがあります。
また、逆にスリーブを先に打ち込んでからオイル・シールを嵌め込む場合、斜めに入ったり引っ掛かったりしたら、オイル・シールのバネが外れる恐れがあります。
外れていても確認すら出来ないので、同時に入れて間違いが起きないようにしているのです。
2つ目のオイル・シールは、かなり手前で見易いので間違う事なく取り付けできます。
オイル・シールの外径に合う鉄パイプと、スリーブの外径に合う鉄パイプが必要な修理でもあり、プロペラ・シャフトのオイル・シール交換が、今回の修理の中で一番難易度が高いです。
左写真で分かるように、組み付け後は手前のオイル・シールのダスト・リップ部より、スリーブ端がほんの僅かだけ中に入る感じになります。
考えようによってはおかしな状態ですが、プロペラ・シャフトにOリングを入れてシャフト・パイプで押し込む構造なので、Oリングがオイル・シールのダスト・リップ部に軽く収まり、結果的にいい感じになります。
クラッチ・シャフトのオイル・シール、そしてプロペラ・シャフトのスリーブとオイル・シールの交換を終えたところです。
合体前の状態です。
もちろん、レリーズ・ベアリング(左写真中央)も交換しています。
クラッチ・シャフトとプロペラ・シャフト回りには、リチウム・グリースを塗付しておきます。
クボタ・トラクタL1-295で、主変速ギヤとクリープ変速ギアです。
左側がシンクロ・メッシュ機構を用いた主変速装置で、右側がコンスタント・メッシュ機構を用いたクリープ変速装置です。