クラッチが滑る(US328)
ヤンマー・トラクタUS328で、クラッチが滑るのでクラッチ板を交換します。
エンジンとクラッチ・ハウジングを分離しなければいけません。
エアコンは、コンプレッサ、コンデンサ、レシーバをホースが繋がったまま外し、横にどけておきます。
フロント・ローダ付きなので、それは先に外してあります。
キャビンなので冷却水を抜き、暖房熱を取るための冷却水経路であるラジエータ・ホースを外します。
推進軸(プロペラ・シャフト)を外します。
左写真は前車軸側の入力軸です。
外した推進軸(プロペラ・シャフト)です。
プロペラ・シャフトは、スナップ・リング(軸用)をずらして2個の連結パイプを移動させれば外せます。
油圧ポンプに接続されている油圧配管2本を外します。
太いほうが吸込側で、細いほうが吐出側です。
高圧管(吐出側)を固定しているボルトは、燃料タンクを外さないと外せません。
エンジンとクラッチ・ハウジングを固定しいるボルトを外すには、ステアリングの支持フレームを取り外さなければいけません。
ステアリングの支持フレームを外し、ステアリング・ジョイントを外します。
エンジンとクラッチ・ハウジングを固定しいるボルトは、やっと外す事ができます。
こちらは、セル・モータのすぐ上にある固定ボルトです。
セル・モータは外す必要がありませんが、外したほうが後々やり易いと思い外しています。
エンジンとクラッチ・ハウジングの固定ボルトを全て外す前に、エンジン側にお手製の台車を取り付けます。
今回は、エンジンとフレームを固定しているボルトを左右2本づつを利用して、台車を固定しました。
台車はキャスタ4個、パンタグラフ・ジャッキ2個、鉄の端材の寄せ集めで、適当に作ったものです。
台車は毎回、その都度トラクタに合わせて適当に作り替えています。
エンジン側をゆっくり引いて分離していきます。
手で左右のタイヤを交互に回せば、簡単に分離します。
当然ですが、ミッション・ケースは底部に馬ジャッキを入れてあります。
クラッチ・カバー(プレッシャ・プレート・アッシ)、クラッチ・ディスク共に随分錆びています。
このクラッチ・カバーに取り付け位置があるかは分かりませんが、念のため外す前にマジックでクラッチ・カバーとフライホイールに印を付けておきます。
ダイヤフラム・スプリングは、レリーズ・ベアリングとの当たり面が随分摩耗しています。
クラッチ・カバーを固定しているボルトを外します。
通常はクラッチ・カバーの変形を防ぐために、対角線上にずらしながら少しづつ緩めていくのですが、このトラクタのクラッチ・カバーには3本のロール・ピンが付いているので、その心配は少なく順番を然程気にしなくてOKです。
クラッチ・カバー、クラッチ・ディスクを外して見ると、フライホイールのクラッチ・ディスクとの当たり面がかなり傷付いています。
フライホイールを交換するのがベストですが、予算の都合上交換しません。
クラッチ・ディスクは酷い状態です。
フェーシング表面はかなり摩耗し、深い傷も入っています。
また、リベットもがた付いてフェーシングがぐらぐらになっています。
1600時間でこんな状態です。
プレッシャ・プレートとの当たり面側もかなり摩耗しています。
フェーシング表面が摩耗すると、リベットがプレッシャ・プレートとフライホイールの表面を傷付けるようになります。
こちらは新品のクラッチ・ディスクです。
前項写真と同じ面ですが、これだけ違います。
アップで見ると酷さが分かります。
傷も入ってます。
当然交換ですね。
新品のダイヤフラム・スプリングです。
レリーズ・ベアリングとの当たり面です。
推進軸の案内軸受であるパイロット・ブッシュは、せっかくなので交換します。
ブッシュの穴径は15㎜なので、M16のタップを食い込ませ引き抜きました。
どうやって外そうかと考えていたら、この方法を思い付きました。
M16×1.5の1番タップと、外したパイロット・ブッシュです。
クラッチ・センタ・ツールを旋盤で自作します。
途中でクラッチ・ディスク、又はパイロット・ブッシュを差し込み確認し、削り過ぎないようにします。
ノギスでの測定ですが、パイロット・ブッシュの内径が15㎜、クラッチ・ディスクのボスの内径が21.6㎜なので、外径25㎜の丸棒を先端15㎜、中央21.6㎜に削りました。
割と適当です。
自作したクラッチ・センタ・ツールを使い、クラッチ・ディスクをフライホイールに合わせます。
クラッチ・ディスクはボス部の長い方を手前にします。
というより、この向きしか取り付きません。
次にクラッチ・カバーを取り付けますが、古いクラッチ・カバーを外す時にロール・ピンが1つ一緒に抜けてきてしまったので、先に打ち込んでおきます。
外したクラッチ・カバーと同じ位置で、新品のクラッチ・カバーを取り付けます。
予め外したクラッチ・カバーとフライホイールの端に、白マジックで印を付けておいたので、照らし合わせれば取り付け位置は分かります。
固定ボルトは対角線上にずらしながら少しづつ締めていきます。
推進軸からのオイル漏れはありませんが、せっかくなので推進軸のオイル・シールも交換します。
当然レリーズ・ベアリングも交換です。
レリーズ・ハブから古いレリーズ・ベアリングを外します。
推進軸ケース(リテーナ)を取り外します。
レリーズ・フォークが邪魔になるので、スプリング・ピンを抜きレリーズ・フォークをずらしておく必要があります。
推進軸ケースを外さないとオイル・シール交換はできませんが、比較的簡単に行えると思います。
一番手間なのが、古いガスケットを捲ってきれいにする作業です。
深い位置にあるのでやり難いです。
スクレーパは狭くて使えないのでマイナス・ドライバを使っていますが、先端を少し曲げて削り易くしています。
最後は灯油浸けした#1000の耐水ペーパできれいに磨き、コンプレッサでエア吹き洗浄します。
新品のガスケットを入れて推進軸ケース(リテーナ)を取り付けます。
少し心配だったので液体ガスケットも併用しました。
レリーズ・フォークを戻しスプリング・ピン、針金で固定したら、レリーズ・ハブ(レリーズ・ベアリング)を取り付け完了です。
折角なので、クラッチ・ペダル軸のブッシュ回りにグリースを塗付しておきます。
エンジンとクラッチ・ハウジングの合体です。
手でゆっくりと左右の前輪(タイヤ)を回して近づけていきます。
接合面には液体ガスケットを塗付しておきます。
固定ボルトの穴位置を合わせるため適当なボルトを入れます。
入れておくだけでOKです。
推進軸の先端がクラッチ・ディスクのボス穴に入るように、左右の前輪を交互に少しづつ回して押し込みます。
先端を入れるまでは簡単ですが、その後のスプラインはめあい部が少々問題です。
すんなりとはまらない事もあるので、落ち着いて忍耐強く行います。
コツとしては手で冷却ファンを小刻みに正逆転させて、推進軸とクラッチ・ディスクのスプラインはめあいを合わせ、じわりとエンジン側を押します。
また、機体を両横から見て接合面が上下左右ほぼ等間隔で相対しているか、常に確認しながら行うことです。
等間隔でない場合は、等間隔になるように調整します。
決して無理に入れないことです。
固定ボルトは対角線上にずらしながら締めていきます。
この後はどんどん元に戻していく訳ですが、他にはミッション・オイルを入れ、冷却水を入れ、燃料を入れます。
燃料のエア抜きは、スイッチONにして暫く待っていれば自動でエアが抜けます。
それと、肝心なクラッチ・ペダルの遊び調整も必要ですね。
ステアリングを取り付けたら、エンジン側からステアリング・ジョイントを取り付けます。
一応ステアリングは直進位置で、ジョイントはなるべく元と同じスプラインはめあい位置に取り付けます。
では、どうやって元の位置を判断しているかというと、外したユニバーサル・ジョイントのところに、白マジック(後項写真)で印を付けてあるのでそれを頼りにします。
この部分は手も入らないので、白マジックで印を付けていません。
後項写真のパワステ入力軸のところに付けた印を頼りにします。
とは言っても、左写真のところを最初に入れないといけないので、なかなか一発で決まりません。
ステアリング・ジョイントは然程無理な角度で回転しないし、ユニーバーサル・ジョイントになっているのでどの位置でも問題ないと思いますが、念のため元通りにします。
走行しないと分かりませんが、ステアリングが直進位置で真っ直ぐ進まない場合はこの部分を外して位置を変えます。
このトラクタのクラッチ交換は初めてですが、サービス・マニュアルを取り寄せてもいないので、実経験をもとに記述しています。