トラクタやコンバインにおいて、バッテリの交換が必要な症状について説明します。
エンジンを始動するにはセル・モータを回す必要がありますが、そのセル・モータを回すのに必要なものがバッテリです。
したがって、バッテリを換える換えないの判断基準は、ざっくり言うとセル・モータを勢い良く回せるだけの電力があるのかどうかの判断になります。
この状態を確認出来て、電力が十分あると判断出来ます。
使用年数が4~5年以上経過しているバッテリ(例外あり)は、主に以下の状態になった時に電力不足と考え、交換のタイミングになります。
「1」はともかく、「2」の場合は充電すれば、その先少しは使えるかもしれません。
左写真のバッテリは、白い粉がプラス端子回りに付着するサルフェーションを起こしている状態ですが、例えセル・モータが回ってエンジンをかける事が出来たとしても、バッテリ寿命は残り少なくなっています。
「3」の場合は、バッテリが完全に放電しきってダメになっている症状ではありますが、必ずしもバッテリが放電しきってダメになっているとは限りません。
それは、バッテリ・ターミナルが緩んで接触不良を起こしている場合です。
また、古いトラクタやコンバインでは、マイナス線とフレームとの接合面が錆びてアース接触不良になり、これが原因で「3」の症状になる事もあります。
他には、スロー・ブロー・ヒューズ(フュージブル・リンク)が切れていると、当然「3」の症状になります。
これは自分でバッテリを換える人に多く、気付かない!?間に工具をスパークさせてスロー・ブロー・ヒューズを切ってしまっているのです。
それ以外の理由でスロー・ブロー・ヒューズが切れるのなら、どこかで漏電している事になるので問題です。
左写真で分かるようにスロー・ブロー・ヒューズは容量の大きいヒューズで、バッテリやセル・モータの近くにあります。
古い機械ではスロー・ブロー・ヒューズではく、配線タイプのフュージブル・リンクが使われていますね。
経験上の話しですが、サーキット・テスタでバッテリ電圧を測定した時、大凡12.5V以上ないと「1」や「2」の症状になる事が多く、12V以下だと「3」の症状になりますね。
左写真のMFバッテリを例にすると、テスタでの測定上は12.79Vあり、現時点では大丈夫だと判断出来る電圧ではありますが、これはあくまで無負荷電圧の測定であり、専用のバッテリ・テスタを使っている訳ではないので参考程度に考えて下さい。
「1」「2」「3」までの症状なら分かり易く判断が容易です。
しかし、中にはバッテリは問題ないはずなのに、一切セル・モータが回らない症状があります。
具体的には、始動条件を満たした(走行ニュートラル、PTOニュートラルなど)上で、キーON時でメータ・パネルの各表示灯が煌々と点灯しているのに、キーを始動位置にしてもセル・モータが回らない症状です。
どこに問題があるかは、以下の方法で判断出来ます。
キーSWを始動位置にした時、セル・モータの始動端子に約12Vの入力があるかを調べます。
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出力が出ていれば、キーSWや配線などの始動回路は正常に働いていると判断出来ます。
出力がなければ回路上の問題になりますが、殆どの場合セーフティ・スイッチが原因なので、まずはセーフティ・スイッチを確認します。
セーフティ・スイッチは、変速レバーやPTOレバーのレバー元などにあります。
始動端子に接続するコネクタに約12Vの出力があるにもかかわらずセル・モータが回らない場合は、直結させる事で簡単にセル・モータが正常かどうか判断できます。
邪道ですが、これでセル・モータが回ればセル・モータは問題ないと判断でき、勢い良く回ればバッテリも問題ないと判断できます。
セル・モータのバッテリ(B)端子と始動(S)端子を、銅線を使い一瞬だけ短絡(端子に線を当てる)させます。
短絡させる瞬間にスパークして端子が少し溶解するのであまり良くはないですが、実に早く判断できます。
先に始動端子に銅線を当てておいて、後にバッテリ端子側を接触させれば然程問題ありません。
直結しても回らない場合は!?
古いコンバインによくある症状で、バッテリは十分あるのにセル・モータが回らない事があります。
この「カチ」は、セル・モータ内のマグネット・スイッチの作動音です。
現在までよく使われているセル・モータは、マグネット・スイッチが作動した時にモータへの通電スイッチがONされる構造になっていますが、この通電スイッチの接点の接触不良が主な原因です。
自動車と違い使用頻度が格段に低いので、接点が摩耗するとかではなく、主に水分などにより錆びて接触不良を起こしていると考えられます。
また、モータ側ではブラシとコンミテータ間に錆びが発生するなどして、通電不良を起こしているのかもしれません。
では、どうすれば良いかというと、以下の方法で対処します。
分解掃除すれば改善されますが、応急装置として、左写真のようにセル・モータのボディをハンマで軽く数回叩き、衝撃を与えてから通電させます。
「カチ」音もしない時は、左写真のようにマグネット・スイッチがあるボディを叩きます。
「カチ」音だけしてモータが回らない時は、モータ側のボディもハンマで軽く叩きます。
これでセル・モータが回れば良いですが、ダメでも数回繰り返すと大抵は回るようになります。
他には、セル・モータの始動端子とコネクタ(入力線)との接触が悪い場合もあるので、その場合はコネクタを外し潤滑剤を吹き付け、先端の細いラジオ・ペンチなどを使ってかしめ直してから差し込みます。