農業機械で使われるダイヤフラム式キャブレータは、ここで説明するタイプのものが多く使われます。
ここで説明するダイヤフラム式キャブレータは、草刈機の2サイクル・エンジンに使われているWalbro製のロータリ・バルブ式WYJ型です。
また、ロータリ・バルブ式で似たようなキャブレータが他に幾つかありますが、各部品の形状が多少違っても、大まかには同じ構造になっています。
キャブレータの各部名称と分解手順、また症状に対しての掃除ポイントを説明します。
※あくまでも自分なりの解釈で説明していますので、多少の間違いがあるかも分かりません。
1.バルブ・アッセンブリ・スロットル / 2.ボディ・アッセンブリ・キャブレータ / 3.ポンプ・ガスケット(上)、ダイヤフラム・ポンプ(下) / 4.燃料戻り口 / 5.燃料吸込口 / 6.プライマリ・ポンプ / 7.ボディ・アッセンブリ・エア・パージ / 8.メタリング・ダイヤフラム・ガスケット(上)、ダイヤフラム・メタリング(下) / 9.ボディ・アッセンブリ・ポンプ / 10.ベンチュリ / 11.スクイーズ・パッキン / 12.アクセル・ワイヤ調整取付ボルト / 13.スロー調整ネジ
左写真は、エンジンから外してキャブレータ単体にした状態です。
キャブレータの分解掃除は部分的に行うものではなく、分解したら全て掃除するのが基本です。
キャブレータの分解掃除には泡タイプのキャブレータ・クリーナを使いますが、吹き付けておいて汚れを含んだクリーナ液は、コンプレッサでエア吹きしてきれいに飛ばします。
コンプレッサが無ければ潤滑剤を使います。
尚、泡タイプのキャブレータ・クリーナを使うのは、液体タイプに比べてクリーナ液をより部品全体に行き渡らせる事が出来るためです。
また、キャブレータ・クリーナは汚れを落とす反面、ゴム材にはよくありません。
したがって、ゴム材が多いダイヤフラム式キャブレータの分解掃除に使用するキャブレータ・クリーナは、強力タイプと謳っていない製品を使う事が賢明です。
経験上、ダイヤフラム式キャブレータに使われているゴム材は、クリーナ液の浸け置きを長時間しなければ問題を引き起こす事はありません。
ダイヤフラム式キャブレータにおいて、症状に対して関係する部品(箇所)は大まかに以下の通りです。
※厳密には、いろんな箇所が関係して正常な動作をします。
ダイヤフラム膜(ダイヤフラム・メタリング、ダイヤフラム・ポンプ)の硬化は、硬化具合によってエンジンの症状が違ってきます。
硬化の初期段階では、アイドリングや低速回転でエンジンが停止します。
他、チョークを開いた途端にエンジンが停止する症状は、燃料が悪い(古い)場合があります。
また、すぐにエンジンが停止する場合やエンジンが始動出来ない場合は、ダイヤフラム膜の硬化やゴミ詰まり以外に水が混入している場合があります。
ダイヤフラム式のキャブレータは、エンジンの傾きに関係なく一定油面を保つ為どの方向でも使用できるが、
1.バルブ・アッセンブリ・スロットル / 12.アクセル・ワイヤ調整取付ボルト / 13.スロー調整ネジ / 15.スクリュ 3×10 / 16.アクセル・ワイヤ引掛け部(スイベル) / 17.スロットル・バルブ芯弁調整ネジ
1のバルブ・アッセンブリ・スロットルは、横穴の開いた円柱形の吸入抵抗弁(23のスロットル・バルブ)と、その弁の中心に芯弁(24のスロットル・バルブ芯弁)を設けたもので、円柱形の吸入抵抗弁の開度が変わると、横穴からは空気の吸い込み量、芯弁からは燃料の噴射量が変わります。
16のスイベル部をアクセル・ワイヤで引く事により、円柱形の吸入抵抗弁は決められた分だけ上がりながら回るので、芯弁を上げると同時に横穴の面積を変え、シリンダ燃焼室への混合ガスの流入量を変えて、エンジン回転を調節出来るようになっています。
17のスロットル・バルブ芯弁調整ネジは、通常のキャブレータ掃除で調整する事がありません。
このネジを回すとエンジンのふけ方が変わってしまうので、分からなければ触らないほうが賢明です。
→スロットル・バルブ芯弁調整ネジについて
1.バルブ・アッセンブリ・スロットル / 2.ボディ・アッセンブリ・キャブレータ / 13.スロー調整ネジ / 15.スクリュ 3×10 / 23.スロットル(ロータリ)・バルブ / 25.メイン・ノズル
15のネジを2本外して、1のバルブ・アッセンブリ・スロットルを外します。
奥側の15のネジを外す時、プラス・ドライバの刃先と1のバルブ・アッセンブリ・スロットルのレバー部が少し干渉する場合があります。
その場合は、レバー部が干渉しなくなるまで13のスロー調整ネジを緩めます。
ここでは1のバルブ・アッセンブリ・スロットルを外していますが、実際のキャブレータ掃除では、これをを外さなくても良い場合が多くあります。
理由は、24のスロットル・バルブ芯弁(芯棒)が収まる25のメイン・ノズルがあまり詰まらない事と、外さなくてもキャブレータ・クリーナを吹き付ける事が出来るためです。
当たり前ですが、外したほうが芯弁回りが剥き出しになるので、掃除は確実に出来ます。
1.バルブ・アッセンブリ・スロットル / 23.スロットル(ロータリ)・バルブ / 24.スロットル・バルブ芯弁
23のスロットル・バルブと、その中心に設けられている24のスロットル・バルブ芯弁に、キャブレータ・クリーナを吹き付けてきれいにします。
1のバルブ・アッセンブリ・スロットルを外さずして掃除する場合は、26のメイン・ジェットからキャブレータ・クリーナを吹き付け、23のスロットル・バルブ内からクリーナ液がしっかり出てくる事を確認します。
1のバルブ・アッセンブリ・スロットルを2のボディ・アッセンブリ・キャブレータに組み付けた時は、23のスロットル・バルブが吸気通路でスムーズに回る事を確認します。
動きが悪い場合は、潤滑剤を吹き付けて動きを良くします。
2.ボディ・アッセンブリ・キャブレータ / 10.ベンチュリ / 25.メイン・ノズル
10のベンチュリは吸気通路の絞り部で、吸気通路を途中で狭くする事で吸気速度を上げ、混合ガスを安定してエンジン燃焼室に送り役割があります。
25のメイン・ノズルは主噴射口で、燃料貯留部にある燃料は26のメイン・ジェットを通って、23のスロットル・バルブ内で吸い出され、吸気口から吸い込まれてくる空気と23のスロットル・バルブ内でで混ざり、燃料と空気の混合ガスとしてエンジン燃焼室に吸い込まれて(送られて)いきます。
そのため、26のメイン・ジェットを含む15のメイン・ノズルが詰まると吹け上がらなくなります。
また、25のメイン・ノズルは樹脂なので、細い針金を通すやり方はノズル内を傷付ける恐れがあるためお勧めしません。
4.燃料戻り口 / 5.燃料吸込口 / 6.プライマリ・ポンプ / 14.スクリュ 3×23
6のプライマリ・ポンプは、エンジンを始動できる状態にするため、燃料タンクから5の燃料吸込口を経由して、燃料貯留部に手動で燃料を送るためのポンプです。
ダイヤフラム式キャブレータの特徴の1つで、エンジン始動前に6のプライマリ・ポンプを5~10回程押して、キャブレータの燃料貯留部に燃料を溜めておく必要があります。
燃料が一定量溜まったら、6のプライマリ・ポンプを何回押しても、余分な燃料は4の燃料戻り口を経由して燃料タンクに戻るようになっています。
そのため、 6のプライマリ・ポンプが破れると燃料は漏れるだけでなく、吸わせる事も出来なくなります。
また、硬化していると押して凹んだまま戻らないので、これも燃料を吸わせる事ができません。
キャブレータ以外では、燃料タンク内にある吸入フィルタが目詰まりしていたり、吸入ホースが破れていたりすると、当然燃料の吸い込みが悪くなります。
14のネジは4本あり、6のプライマリ・ポンプ、7のボディ・アッセンブリ・エア・パージ、9のボディ・アッセンブリ・ポンプを固定しています。
6.プライマリ・ポンプ / 7.ボディ・アッセンブリ・エア・パージ / 14.スクリュ 3×23 / 27.チェック・バルブ
14のネジを4本外して、6のプライマリ・ポンプを押さえ板ごと外します。
6のプライマリ・ポンプは破れていなければ、とりあえずそのまま使います。
7のボディ・アッセンブリ・エア・パージは、中央に27のチェック・バルブを設けていて、圧縮空気の吸排制御を行う役割があり、6のプライマリ・ポンプを押した時と離した時に出来る空気の流れを、一方通行にする仕組みになっています。
6のプライマリ・ポンプを押すと、正圧によって27のチェック・バルブ中心穴が開き、S穴からP穴、燃料戻り口、そして燃料タンクへ正圧がかかります。
逆に、6のプライマリ・ポンプが元に戻るときは、負圧によって27のチェック・バルブを持ち上げようとするので、27のチェック・バルブ外周面は開き、T穴からO穴、そして9のボディ・アッセンブリ・ポンプのE穴に負圧がかかります。
これはチェック・バルブの特性によるもので、一方通行を可能にしてます。
この時、9のボディ・アッセンブリ・ポンプにある29のバルブは吸い寄せられて密閉し、さらに8のダイヤフラム・メタリングも吸い寄せられるので上側に膨らみ、19のニードル・バルブが開きます。
繰り返し何回か押すと、開いた19のニードル・バルブから9のボディ・アッセンブリ・ポンプの各穴(燃料経路)を経由して、そのまま燃料タンクまで負圧がかかるため燃料が吸い上がってきます。
7.ボディ・アッセンブリ・エア・パージ / 8.ダイヤフラム・メタリング
7のボディ・アッセンブリ・エア・パージを外します。
7のボディ・アッセンブリ・エア・パージは、分解歴のないキャブレータだと多少こべりついています。
その場合はプライヤで掴んで外します。
7のボディ・アッセンブリ・エア・パージを外すと8のダイヤフラム・メタリングの裏側が見えます。
8のダイヤフラム・メタリングを外す前に、もう少し7のボディ・アッセンブリ・エア・パージについて説明します。
8のダイヤフラム・メタリングと接合する上側の面です。
Pの穴は、4燃料戻り口に繋がっています。
Oの穴は、燃料貯留部に繋がっています。
Qの穴は、下側の面のRの穴と繋がっていて、ダイヤフラム・メタリングの内圧を外(大気側)に逃がします。
27.チェック・バルブ
6のプライマリ・ポンプと接合する下側の面です。
27のチェック・バルブは、根元が破れていたら燃料の吸い込み不良になりますが、滅多に破れる部品ではありません。
ボディ・アッセンブリ・エア・パージの各穴は、27のチェック・バルブが付いたまま掃除出来ます。
27.チェック・バルブ
説明のために27のチェック・バルブを外していますが、無理に外すと根元が破れる恐れがあるので、敢えて外さないほうが良いと思います。
27のチェック・バルブの根元の部分(中心部)がSの穴に取り付き、 27のチェック・バルブの外周面がTの穴を塞いでいます。
8.ダイヤフラム・メタリング / 9.ボディ・アッセンブリ・ポンプ / 19.ニードル・バルブ / 22.メタリング・レバー
8のダイヤフラム・メタリングを外します。
8のダイヤフラム・メタリングは、弾性のあるダイヤフラム膜に薄い金属板を取り付けたもので、 22のメタリング・レバーを介して19のニードル・バルブを作動させ、フロート式のニードル・バルブと同じように燃料の供給を制御しています。
そのため、8のダイヤフラム・メタリングが硬化すると弾性力を失うため、19のニードル・バルブを作動させる事が出来ません。
つまり、燃料貯留部に燃料を供給出来なくなったり、供給した燃料を止める事が出来なくなります。
22のメタリング・レバー回りの窪み部分全体が燃料貯留部です。
8のダイヤフラム・メタリングにはガスケットが付いていますが、分解歴のない年数が経過したキャブレータの場合、大抵はこべり付いていて簡単には外せません。
これは、ガスケットと9のボディ・アッセンブリ・ポンプとの間にカッタを入れて、慎重に剥がすしかありません。
上写真のように、8のダイヤフラム・メタリングにガスケットが付いた状態になるはずです。
このようにガスケットが付いていますが、8のダイヤフラム・メタリングから無理に剥がす必要はありません。
ガスケットが少々破れたくらいなら、大抵は問題なく再利用出来ますが、ガスケットを切ってしまうと、組付け後6のプライマリ・ポンプを何度押してもエアを吸い込むため、十分に燃料を吸い込まなくなります。
また、吸わないのに何度も6のプライマリ・ポンプを押し続けると、燃料経路にエアを吸い込み続け圧力がかかり、ホースが外れて燃料が噴き出してくる事があるので注意します。
3.ダイヤフラム・ポンプ / 9.ボディ・アッセンブリ・ポンプ
9のボディ・アッセンブリ・ポンプを外します。
7のボディ・アッセンブリ・エア・パージと同じようにこべり付いているので、 プライヤで掴んで外します。
9のボディ・アッセンブリ・ポンプは後項で説明します。
先に3のダイヤフラム・ポンプについて説明します。
2.ボディ・アッセンブリ・キャブレータ / 3.ダイヤフラム・ポンプ / 26.メイン・ジェット / 28.バルブ
3のダイヤフラム・ポンプ(28のバルブも含む)を外します。
3のダイヤフラム・ポンプは弾性のあるダイヤフラム膜で、2サイクル・エンジンのクランクケース内において、ピストンが上下する時に発生する圧力変動を利用してポンプを作動させ、エンジン運転時に燃料を安定して供給する役割があります。
ピストンが上がる時には吸入負圧が発生します。
インシュレータを経由して、Aの穴に吸入負圧がかかり3のダイヤフラム・ポンプが引っ張られると、燃料吸入ホースを経由して燃料タンク内にも吸入負圧がかかり、燃料が吸い上げられます。
ピストンが下がる時には吐出正圧が発生します。
インシュレータを経由して、Aの穴に吐出正圧がかかり3のダイヤフラム・ポンプが押されると、19のニードル・バルブを押してタイミング良く燃料を燃料貯留部に送り、油面を上げて燃料を吸い上げ易くしています。
そのため、 3のダイヤフラム・ポンプが硬化すると燃料の供給が十分に出来なくなります。
硬化具合によって、エンジンの吹け上がりが悪くなったり、一定のエンジン回転を維持出来なくなるなど、エンジンが不調になります。
完全に弾性力を失ったら、エンジンはかからなくなります。
3のダイヤフラム・ポンプ膜にある28の2つのバルブ(逆止弁)は、9のボディ・アッセンブリ・ポンプの燃料経路の途中で、ポンプ作動時に液だれを防ぎ、燃料がすぐに燃料タンクに戻らないようになっています。
そのため、28のバルブが硬化すると燃料の吸い込みが悪くなりますが、殆どの場合、その前にポンプ部(台形の部分)のほうが先に硬化します。
このように、 8のダイヤフラム・メタリングと3のダイヤフラム・ポンプの2枚のダイヤフラム膜は、6のプライマリ・ポンプを押して始動前に燃料を吸わせる時と、クランキングしてエンジンを始動させる時、そして運転中においてとても重要な役割を果たしています。
3のダイヤフラム・ポンプにもガスケットが付いていますが、8のダイヤフラム・メタリング同様に、分解歴のない年数が経過したキャブレータの場合、大抵はこべり付いていて簡単には外せません。
ガスケットと2のボディ・アッセンブリ・キャブレータとの間にカッタを入れて、慎重に剥がすしかありません。
上写真のように、3のダイヤフラム・ポンプにガスケットが付いた状態になる(分かり難いです)はずです。
しかし、3のダイヤフラム・ポンプの硬化がなければ、必ずしも外さなければいけない訳ではありません。
2のボディ・アッセンブリ・キャブレータのポンプ部(台形の部分)と26のメイン・ジェット、25のメイン・ノズルは、3のダイヤフラム・ポンプを外さなくてもキャブレータ・クリーナで掃除出来るからです。
このようにガスケットが付いていますが、無理に剥がす必要はありません。
ガスケットが少々破れたくらいなら、大抵は問題なく再利用出来ますが、ガスケットを切ってしまうと、組付け後6のプライマリ・ポンプを何度押してもエアを吸い込むため、十分に燃料を吸い込まなくなります。
また、吸わないのに何度も6のプライマリ・ポンプを押し続けると、燃料経路にエアを吸い込み続け圧力がかかり、ホースが外れて燃料が噴き出してくる事があるので注意します。
26.メイン・ジェット
26のメイン・ジェットは主噴口で、燃料貯留部に溜まっている燃料が吸い上げられる時、最初に通る燃料規制口です。
前項で25のメイン・ノズルの説明をしましたが、 その25のメイン・ノズルと穴が繋がっているのが26のメイン・ジェットです。
左写真のように、26のメイン・ジェットは精密ドライバで外す事が出来きますが、その場合、小さなOリングが付いているので無くさないようにします。
26のメイン・ジェットは、外さなくても十分キャブレータ・クリーナで掃除出来ます。
26のメイン・ジェットの穴にキャブレータ・クリーナを吹き付け、25のメイン・ノズルの穴からクリーナ液が出てこれば穴は通っているという事です。
2.ボディ・アッセンブリ・キャブレータ / 25.メイン・ノズル
Bの穴はAの穴に繋がっているパルス穴で、クランクケース内でピストンが上下する時に発生する脈動圧を、 インシュレータを経由して3のダイヤフラム・ポンプに伝える穴です。
2サイクル・エンジンのシリンダは、吸気孔よりパルス穴が下にあります。
ピストンが下死点から上がり始めると、ピストン・バルブ方式により最初にパルス穴が開きます。
この時、吸気孔はまだピストンで塞がれているので、パルス穴にだけ吸入負圧がかかります。
さらにピストンが上がり上死点に近づくと吸気孔が開くので、吸気通路(23のスロットル・バルブと25のメイン・ノズル)に吸入負圧がかかりますが、パルス穴より吸気孔のほうが穴面積が大きいため、すぐにBのパルス穴にかかっていた吸入負圧は無くなります。
また、ピストンが上死点から下がり始めると、吸気孔には吐出正圧がかかりますが、ピストン・バルブ方式により吸気孔が塞がり(閉じ)、吸気通路には圧力がかからなくなります(厳密には多少の吹き返しがあります)。
吸気孔が塞がると同時にパルス穴に吐出正圧がかかりますが、さらにピストンが下がり下死点に近づくとパルス穴も塞がるので、Bのパルス穴にかかっていた吐出正圧は無くなります。
そして、すぐにピストンが下死点から上がり始めるので、再び吸入負圧が発生するようになっています。
クランクケース内では、ピストンが上下に往復するたびに正圧と負圧を繰り返し発生しますが、ピストンの往復速度が速くなると当然その圧力変動も大きくなります。
つまり、吸気通路とパルス穴にかかる脈動圧はエンジン回転に応じて変化するので、キャブレータ内の燃料はエンジン回転に必要なだけ供給されることになります
そのため、Bのパルス穴が詰まって穴の通りが悪くなると、3のダイヤフラム・ポンプに脈動圧力が正しく伝わらないので、エンジンが吹け上がらなくなる等の症状になります。
2のボディ・アッセンブリ・キャブレータとインシュレータを含むシリンダ側の両方のパルス穴に、キャブレータ・クリーナを吹き付けて通りを良くしておきます。
9.ボディ・アッセンブリ・ポンプ / 18.スクリュ・メタリング・レバー・ピン / 19.ニードル・バルブ / 20.メタリング・レバー・スプリング / 21.メタリング・レバー・ピン / 22.メタリング・レバー
9のボディ・アッセンブリ・ポンプについて説明します。
これは、ダイヤフラム式キャブレータにおいて最も重要な役割を果たす装置で、下側の面には燃料貯留部(制御室)、燃料吸込口、燃料戻り口が設けられています。
また、上側の面にはポンプ部(室)と燃料経路が設けてあります。
2サイクル・エンジンにおいて、ピストンが上がり上死点に近づく時に発生する吸入負圧は、23のスロットル・バルブ内の25のメイン・ノズルにかかるので、 29のバルブが持ち上がり、Dの穴に隙間が生まれます。
そして、燃料貯留部から燃料が吸い上げられ、25のメイン・ノズルから吸い出された燃料は23のスロットル・バルブ内で空気と混ざり、混合ガスとしてシリンダ燃焼室へ送られます。
27のチェック・バルブが逆止弁の役割を果たしているので、燃料貯留部から燃料が吸い上げられると同時に8のダイヤフラム・メタリングも上側に持ち上げられ(吸い上げられ)、22のメタリング・レバーを押し上げ19のニードル・バルブが開き、燃料が吸い上げられ燃料貯留部に送られます。
ピストンが上死点から下がり始めると25のメイン・ノズルに吸入負圧がかからなくなるので、8のダイヤフラム・メタリングは下がり、20のメタリング・レバー・スプリングの力で19のニードル・バルブが閉じて燃料供給が止まるのですが、すぐに3のダイヤフラム・ポンプで吸い上げられた燃料は、19のニードル・バルブを押し上げて(閉じる前かも分かりません)燃料貯留部に送られ、油面を上げて次の吸入負圧発生時の燃料の吸い上げに備えます。
2サイクル・エンジンは、構造上4サイクル・エンジンより吸入負圧が低いので、従来のピストン・バルブ式(※1)のキャブレータとは違い、小型化されたロータリ・バルブ式のキャブレータを使う場合、吸気通路にかかる吸入負圧だけでは、エンジンを安定して運転するための安定した燃料の吸い上げが出来ません。
そのため、ダイヤフラム・ポンプを使って強制的に燃料を燃料貯留部に送っています。
つまり、エンジンが始動したら、吸入負圧に合わせて8のダイヤフラム・メタリングは上下し燃料を吸い出すのだが、同時に3のダイヤフラム・ポンプの振動(脈動)圧力により、十分な燃料供給が継続する仕組みになっています。
※1 ここでのピストン・バルブ式とは、キャブレータのスロットル・バルブの形状の事です。
4.燃料戻り口 / 5.燃料吸込口 / 18.スクリュ・メタリング・レバー・ピン / 19.ニードル・バルブ / 20.メタリング・レバー・スプリング / 21.メタリング・レバー・ピン / 22.メタリング・レバー
プラス・ドライバを使って18のスクリュ・メタリング・レバー・ピンを外し、19のニードル・バルブを外します。
ここでは19のニードル・バルブを外していますが、全体的に見て特に汚れが酷くなければ、外さずして掃除すれば良いと思います。
19のニードル・バルブの動きが悪かったり、バルブ・シート面(19のニードル・バルブ先端の円錐部が収まる箇所)にゴミが付着したりすると、6のプライマリ・ポンプを押して燃料を吸い込んだ時に燃料がオーバ・フローします。
Dの穴には、29の薄くて丸い小さなバルブが入っていますが、6のプライマリ・ポンプを押して燃料を吸わせる時は、29のバルブがDの穴を閉じる事によって、燃料貯留部に負圧がかかるようになっています。
また、エンジン始動(運転)時には、29のバルブがDの穴を開く事によって、燃料貯留部に負圧がかかるようになっています。
そのため、Dの穴にある29のバルブ回りにゴミが付着すると、燃料貯留部に十分な負圧をかける事が出来なくなり、燃料の吸い込みが悪くなります。
29のバルブは、コンプレッサでエア吹き掃除しても外れて無くなるものではありませんが、一応は気を付けて行います。
全ての燃料経路にキャブレータ・クリーナを吹き付けて掃除し、穴が全て通っている事を確認します。
Cの穴は、 7のボディ・アッセンブリ・エア・パージのPの穴と合わさる穴で、4の燃料戻り口と繋がっています。
Fの穴は、 7のボディ・アッセンブリ・エア・パージのOの穴と合わさる穴で、Eの穴から燃料貯留部と繋がっています。
9.ボディ・アッセンブリ・ポンプ / 29.バルブ / 30.インレット・スクリーン
5の燃料吸込口から吸われた燃料は、30のインレット・スクリーン(フィルタ)でゴミを除去し、G、H、I、J、K、L、Mの順に通り、下面にある19のニードル・バルブを介して燃料貯留部まで送られます。
JとKの間にあるのがポンプ室です。
全ての燃料経路にキャブレータ・クリーナを吹き付けて掃除し、穴が全て通っている事を確認します。
30.インレット・スクリーン
30のインレット・スクリーンは、燃料タンクから吸い上げられた燃料をろ過するフィルタです。
燃料タンク内にも吸入フィルタを設けているので、2つのフィルタを通して燃料貯留部に燃料が送られます。
そのため、30のインレット・スクリーンがゴミなどで詰まると燃料の吸い込みが悪くなるので、6プライマリ・ポンプを押しても凹んだ状態からの戻りが悪くなったり、エンジンはかかるけど吹け上がらないなどの症状になります。
30のインレット・スクリーンは外して掃除するのも良いと思います。
先の尖ったもので外せますが、その場合は形を崩さないようにして外します。
仮に変形しても形を整えて入れ直せば問題ありません。
◎スロットル・バルブ芯弁調整ネジについて
17の調整ネジ(正ネジ)を回すと、芯弁が上又は下へ移動して、メイン・ノズルからベンチュリ内にて噴射される燃料の量が変化します。
通常のキャブレータ掃除で触る箇所ではありませんが、調整する場合は、キャブレータ掃除後にエンジンを始動して、排気ガスの色を見ながらエンジン音を聞いて調整します。
これは、エンジン運転の理想とする混合比(空気:燃料)に近づけ、燃料を完全燃焼させるための作業です。
基本的に、調整がとれていないとエンジンの始動が悪くなります。
また、同じロータリ・バルブ式で、キャブレータ・ボディにアジャスト・スクリュを設けたものがありますが、上記の調整に加えてさらにメイン・ノズルから噴射される燃料の量を調整することが出来ます。
このタイプは、17のスロットル・バルブ芯弁調整ネジが低速用の燃料調整ネジ(アジャスト・スクリュ)となります。
そして、キャブレータ・ボディに設けたアジャスト・スクリュが高速用の燃料調整ネジとなります。
低速用燃料調整ネジは、低速用といっても上記のように全回転域に影響が出るので、基本的には触らないほうがいいと思います。
高速用燃料調整ネジを右回しにすると、燃料が薄くなりより高回転調整ができます。
しかし、燃料を目一杯薄くしての調整(超高回転)は、エンジンが焼く付く可能性があるので注意します。
回転計を使えば最高回転を合わせる事が容易になりますが、自分の耳でエンジン音を聞けば十分に調整できると思います。
◎チェーン・ソーなどに使われるダイヤフラム式キャブレータ(walbro製バタフライ・バルブ式)について
バタフライ・バルブ式は、スロットル・バルブの形状がロータリ・バルブ式と違うので、燃料の噴射量調整の仕方も多少違ってきます。
バタフライ・バルブ式は、高速用(H)と低速用(L)の2つのアジャスト・スクリュがキャブレータ・ボディに取り付けられています。
したがって、スロットル・バルブの芯弁調整ネジのようなものは付いていません。
キャブレータ分解掃除の際に2つのアジャスト・スクリュを外したら、組付け後は必ず噴射量を調整しなければいけないので、ここで説明しているキャブレータと比べると難しいかもしれません。
そして、まずエンジンがかからないと本調整が出来ません。
組み付ける時に、アジャスト・スクリュの開度がエンジン始動可能な許容範囲を越えていると、エンジンを始動できないか、始動できても調整する前にエンジンが停止してしまいます。
これは、アジャスト・スクリュを外す時に元の位置を覚えておけば大丈夫です。
組み付ける時に同じくらいの位置にする事で、悪いなりもエンジンがかかるはずです。
2つのアジャスト・スクリュの調整は、エンジンを始動して排気ガスの色を見ながらエンジン音を聞いて調整すれば大丈夫です。