点火装置は、ガソリン・エンジンにおいてシリンダ内で圧縮された混合ガスを着火爆発させるものである。
農業機械で使われるガソリン・エンジンは、田植機、エンジン・ポンプ、動力噴霧機など主に単発エンジンで、基本的な点火の仕組みは自動車と同じでイグニション・コイルを使い、ICイグナイタまたはCDIユニットから最適な点火タイミングを指示され、スパーク・プラグの電極間に高電圧スパークを誘発させる仕組みになっている。
しかし、単発エンジンは、自動車のように多気筒エンジンではないのでディストリビュータは設けておらず、より簡素化されている。
点火方式
スパーク・プラグに火花を飛ばすには、イグニション・コイルの1次コイルに電流を流さないと始まらない。
イグニション・コイルの1次コイルへ流す電流は、バッテリから得るバッテリ点火方式と、フライホールの回転からの発電から得るマグネト点火方式がある。
田植機などセル・モータを回転させて始動するものはバッテリ点火方式が多く使われ、エンジン・ポンプなどリコイル・スタータを使って始動するものはマグネト点火方式が採用されている。
しかし、セル・モータ始動の汎用エンジンの殆どと、田植機などでセル・モータとリコイル・スタータ両方で始動できるものにおいては、マグネト点火方式が採用されている。
バッテリ点火方式では、バッテリ放電状態でブースタ・ケーブルを使い始動させても、バッテリが放電しきっていると、イグニション・コイルの1次コイルに電流を流せないためエンジンはすぐに停止する。
バッテリ点火方式かマグネト点火方式の何れかでイグニション・コイルの1次コイルに電流が流される訳だが、2次コイル、つまりスパーク・プラグに火花を飛ばすには、1次コイルに流れた電流を適切なタイミングで遮断しないといけない。
その方式は以下の4つがある。
主な点火方式の特徴
農業機械で使われる4サイクル2サイクルの単発エンジンでは、(フル)トランジスタ式やCDI式を多く用いている。
最近ではどちらの方式も、IC化されたユニットをイグニション・コイル内に設け(一体型)、点火時期をマイコンで制御(デジタル進角)し、全回転域で最適な点火、燃焼させるものが増えてきている。
また、点火ノイズの影響によるマイコンの誤作動を防ぐためにスパーク・プラグは、レジスタ・プラグが使われる。
最近は、共に高性能なマイコン(デジタルIC)が組み込まれたイグニション・コイルが開発され、下記の欠点も無くなってきている。
イグニション・コイルは、鉄心に一次コイルと二次コイルを巻いたものをケースに収め、固定、絶縁のために周囲にコンパウンド又は絶縁油、エポキシ樹脂を充てんしていて、鉄心構造により、開磁型と閉磁型(下図例)に分かれる。
閉磁型コイルは鉄心だけで磁気回路ができているので、磁気抵抗を少なくできる。
そのため、開磁型より1次コイルの巻き数を少なくして、それと同等の磁力を得ることができるので開磁コイルより小形で軽量化できる。
したがって、主に閉磁型コイルが使われる。
※上図の回路例においてNPNトランジスタとあるが、これは分かり易くしたもので実際にはIC化されている。
フルトランジスタ式(イグナイタ)
単発ガソリン・エンジンで多く使われる点火方式は、マグネト点火方式である。
左図(例)のようにフライホイールの外周または、内周にイグニション・コイルが取り付けられ、フライホイールが回転することによってフライホイールに取り付けられている磁力板と、イグニション・コイルの磁極との間で起電する。
その低電圧電流はイグニション・コイル内の一次コイルからイグナイタ(進角ユニット)に流れる。
イグナイタ内のIC(数個の抵抗、トランジスタなど)にて点火時期を検出して、最適な点火時期にパワー・トランジスタのベース電流を遮断し、イグニション・コイルの2次コイルに数万Vの高電圧を誘起させる。
その高電圧はスパーク・プラグの中心電極と接地電極の間で火花放電し、シリンダ内の圧縮混合ガスに点火爆発する。
現在では上図のように、イグニション・コイルにICイグナイタ(進角ユニット)が内蔵された一体型のものが多く使われる。
ICイグナイタとはフルトランジスタ式で使われるICユニットで、主に外囲器、パワー・トランジスタ、制御回路の3つから構成される。
農業機械で使われるフルトランジスタ式の単発エンジンでは、基本的に、自動車や2輪車などのようにコンピュータ(ECU)や点火信号を電磁誘導(ピック・アップ・コイル)によって発生させる装置を持たない。
クランク・シャフトの回転数によって起電力の発生するタイミングも大きさも変化するが、ICイグナイタが点火時期を制御している。
単発エンジンでのICイグナイタには次のような機能と役割がある。
イグニション・コイルの簡易テスト(マグネト点火方式、フルトランジスタ式)
イグニション・コイルの1次と2次のコイルが正常かどうか、サーキット・テスタを使って判断する。
左写真のようにプラグ・コード、ストップ・スイッチ間の抵抗を測定して、5~13kΩ程の抵抗があれば2次コイルは良しとする。
そして鉄芯、ストップ・スイッチ間を測定して、1~2Ω程の抵抗があれば1次コイルも良しとする。
共に測定値が絶縁状態なら、コイル線が断線していると考えられる。
ICイグナイタは内蔵式と外付け式があるが、基本的には共に同じ方法で行える。
左上写真は、分かり易くするためにイグニション・コイルを取り外して測定しているが、通常はイグニション・コイルを取り外すことなく、プラグ・キャップとストップ・スイッチ間の測定になる。
また、外付け式のイグナイタ単体は、正常かどうかはサーキット・テスタで判断できないが、イグニション・コイルが正常で火花が飛ばない場合(スパーク・プラグ、ストップ・スイッチ、配線類正常において)は、イグナイタの故障となる。
※注意:抵抗値は管理者の経験によるものなので、確実な値ではありません。
CDI(Capacitive Discharge Ignition)式
バッテリ、またはマグネト発電から送られてきた電圧はCDIユニットで、100~300Vの交流電圧に昇圧発電される。
交流の正電圧時は、発電機からダイオード、コンデンサ、イグニション・コイル1次コイルの直列回路を通って電流が流れ、コンデンサを充電する。
交流の負電圧時は、発電機と並列のダイオードを通って電流が流れるので、コンデンサには影響しない。
サイリスタのG(ゲート)素子に定められた点火時期で電気信号が入ると、コンデンサに充電された電荷は、一気にイグニション・コイル1次コイルを通って放電されるので、2次コイルには高電圧が発生し、スパーク・プラグの電極間で火花放電する。
現在、草刈機などの2サイクル・エンジンで使われるCDIユニットは、主にイグニション・コイルに全てIC化されて内蔵され、点火時期(進角、遅角など)を正確に制御している。
従来のような外付けのピック・アップ・コイル、発電コイル、CDIユニットなどは必要がない。
フライホイールに磁力板(永久磁石)を連続で2つ(N極S極)設け、回転するフライホイールとの間でイグニション・コイルの磁束を変化させ、誘起される高電圧と適切な点火時期を内蔵のマイコン・ユニット(デジタルCDI)で制御し、エンジン回転に合わせた正確な点火タイミングで、数万ボルトの高電圧点火が出来るようになっている。