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水冷式冷却装置



水冷式冷却装置は、始動中の高温になったエンジン各部の温度を冷却水で冷やし適正に保つ装置であり、一般に加圧式の強制循環式が使われている。

キャビン(室内)タイプの作業機械では、高温になった冷却水は暖房装置に利用され、その冷却水熱を送風機で取り出し室内に送り、寒冷時などに個室を暖めることができる。

冷却水の流れ
冷却装置の構成部品
オーバ・ヒートの原因


◎冷却水の流れ



出口制御式 冷却水は、エンジンが温まるまでウォータ・ポンプの送水力で、ウォータ・ポンプからシリンダ・ジャケット(エンジン内)に入り、バイパス経路を経て循環する。

エンジンが温まり水温が上昇すると、エンジン出口側の冷却経路に取り付けられているサーモスタットが開き、冷却水はラジエータへ送られる。

ラジエータで冷やされた冷却水は、エンジン入口側の冷却経路に入り、高温のエンジンから熱を奪って(適温に調整)高温になった冷却水は、再びラジエータに送られ冷やされる。


このように、エンジン出口側の冷却経路にサーモスタットを設けたものを出口制御式といい、農業機械の多くがこの方式である。

また、エンジン入口側の冷却経路にサーモスタットを設けたものを入口制御式という。



出口制御式のメリットとデメリット
エンジンの負荷に関係なく、エンジン出口側の水温は一定である。

冷却水がシリンダ・ブロック及びシリンダ・ヘッドのウォータ・ジャケットを循環し、サーモスタットに到達した時点での冷却水温度をサーモスタットが検知して作動するため、流量調整後の応答遅れがあり水温変動を生じる。
このため、入口制御式に比べ開弁温度が5~7℃くらい高めのサーモスタットを使ってる。

入口制御式に比べ点検整備し易い。
入口制御式のメリットとデメリット
エンジンに流入する冷却水の温度をサーモスタットが検知して作動するため、応答遅れがなく水圧の影響も受けないので水温変動が小さい。 また、暖機時間が短い。

入口制御式のサーモスタットは、開弁温度が76~82℃くらいと低めのものが使われる。

エンジンに高い負荷がかかると、エンジン出口側の水温が上昇する。

出口制御式に比べ点検整備し難い。



◎冷却装置の構成部品



冷却水



ラジエータ冷却水は、エンジンが高温になり過ぎないように、冷却経路を循環させてエンジン熱を奪う役割がある。

一般に冷却水は、冷却液(ロング・ライフ・クーラント)と水道水の混合水が使用される。

LLC(ロング・ライフ・クーラント)とは、エチレン・グリコールに特殊な防錆剤、防食剤、そして酸化抑制剤と凍結防止剤を添加したもので、冷却各部の金属腐食を長期間防止し、冬季の凍結、夏季のオーバヒートを防止する性能がある。

その効果は、一般的に2~3年なので定期的に交換する必要がある。

他、凍結防止のみを目的とした不凍液(アンチ・フリーズ)があるが、通常はLLC(ロング・ライフ・クーラント)を使用する。

冷却液(ロング・ライフ・クーラント)を全水量の30%くらい混入すれば、大体だが凍結温度を-20℃くらいに下げる事が出来る。

混入率を増やせば、凍結温度もさらに下がる事になるが、60%以上にすると凍結温度が逆に高くなるので注意する。

ラジエータ



コルゲート・フィン型ラジエータは高温になった冷却水を冷やすためのものである。

ラジエータは上部がアッパ・タンク、中央がラジエータ・コア、下部がロア・タンクで、主にこの3つで構成されている。

ラジエータ・コアは、コルゲート・フィンが多く用いられている。

各部は熱伝導性の高いアルミニウム合金、または薄い黄銅板で造られている。

ラジエータ・コアは、ファンの送風力によって常時風がエンジン方向に吹いているので、どうしても空気中のゴミ埃も一緒に吸い込まれる。

ラジエータ・コアのフィンにゴミ埃が付着すると冷却効率が落ちるので、ラジエータ・コア全面を覆うように吸い込まれる側に防塵(防虫)網が取り付けられている。

また、ラジエータは、常に冷却水を満水にしておくためにサブ・タンクが取り付けられている。



ラジエータ・キャップ、サブ・タンク



ラジエータ・キャップは、プレッシャ・バルブとバキューム・バルブを備え、冷却系統に50~100kPaの圧力を加えるようにしたプレッシャ型ラジエータ・キャップが多く用いられている。

これは、ラジエータ・キャップでラジエータを密封し、冷却水の熱膨張によって圧力を掛け、水温が100℃以上になっても沸騰しないようにして、気泡の発生を抑え冷却効果を高めている。

ラジエータ内が規定圧力範囲内のときは、プレッシャ・バルブとバキューム・バルブが閉じてラジエータ内の気密を保ち、冷却水の温度が上昇しラジエータ内が規定圧力以上になると、プレッシャ・バルブが開いて冷却水を逃がし、ラジエータ内の圧力を調整する。

冷却水が冷えてラジエータ内が負圧になると、バキューム・バルブが開いてサブ・タンクから冷却水を吸入し負圧をなくそうとする。


ラジエータ内は常に一定の冷却水量を保つ必要があるので、サブ・タンクには規定範囲内の冷却水量を必ず入れておく。

農業機械では、ラジエータ・キャップは0.9kg/c㎡で作動するものが多く使われている。

サブ・タンクの冷却水とラジエータ・キャップ内のバルブ作動


ラジエータ内の冷却水の温度が規定内のときは、サブ・タンクの冷却水は変わらない。
(プレッシャ・バルブ閉、バキューム・バルブ閉)

ラジエータ内の冷却水の温度が上昇して体積が膨張したときは、サブ・タンクの冷却水は増える。
(プレッシャ・バルブ開、バキューム・バルブ閉)

ラジエータ内の冷却水の温度が低下したときはラジエータ内の負圧によって、サブ・タンクの冷却水は減る。
(プレッシャ・バルブ閉、バキューム・バルブ開)

オーバ・ヒートの原因


ラジエータやウォータ・ポンプ、そしてウォータ・ホースなどの冷却経路から冷却水が漏れ出せば、水量不足でエンジンを冷却出来なくなりオーバ・ヒートになる。

そして、水漏れがなくてもオーバ・ヒートの原因になる主なものが、ラジエータ・キャップの不良、ファン・ベルトの張り不足、そして、ラジエータ・コアのフィンの目詰まりである。


ラジエータ・キャップのパッキン不良や加圧弁、負圧弁不良では、規定加圧力(0.9kg/c㎡)を保持できなくなるので沸点が下がり、冷却水は蒸発し易くなり徐々に減り始める。

初期症状として、エアの混入による冷却水の減少や、キャップ元から水が漏れるなどの症状が現れ、最終的にはエンジンから水蒸気が発生しオーバ・ヒートになる。


ファン・ベルトの張り不足では、冷却ファンとウォータ・ポンプが回転不足になるので、冷却水を十分に冷やす事が出来なくなりオーバ・ヒートになる。


ラジエータ・コアのフィンが目詰まりになると、冷却効率が落ちるので、冷却水を十分に冷やす事が出来なくなりオーバ・ヒートになる。
これは、主にゴミ埃が多い環境で使用するコンバインに多い。

ラジエータ・キャップの簡易点検

(正確な点検には、キャップ・テスタが必要になる。)


プレッシャ・バルブ(加圧弁)を指で押す。

バネ圧を感じながら押し込むことができて、指を離すと弾力よく元に戻る。

また、スプリングが見えるタイプのものは、錆付いていないか確認する。

バキューム・バルブ(負圧弁)を指で引く。

弱いバネ圧を感じながら引き出せて、指を離すとスムーズに密閉状態になる。
ラジエータ・キャップの種類によって、スプリングの無いものもある。


プレッシャ・バルブ・パッキンの亀裂、硬化がないか確認する。

ラジエータ・キャップ・パッキンの亀裂、硬化がないか確認する。

バキューム・バルブ・パッキンの亀裂、硬化がないか確認する。
このパッキンは、あるものと無いものがある。
無いものはプレッシャ・バルブ・パッキンと兼用である。



サーモスタット



サーモスタットサーモスタットは、冷却水温が一定になると自動的に開閉する弁で、冷却水の循環経路、主にウォータ・ポンプ・ケースとウォータ・ホースの接続部に設けられている。

エンジンが冷えているときは、ラジエータの水路を遮断して冷却水を早く適温にし、適温になった後はラジエータに流れる冷却水の流量を制御して水温を調整している。

尚、弁は急に開閉するものではなく、冷却水が一定温度になると徐々に開いたり閉じたりする。

サーモスタットは、ワックス・ペレット型(右図)とベローズ型があり、ディーゼル・エンジンもガソリン・エンジンも一般にワックス・ペレット型が多く用いられている。

ワックス・ペレット型は、ワックスをペレットの中に密封したもので、熱によりワックスが膨張収縮する性質を利用し弁を開閉している。

ベローズ型は、エーテルが熱により膨張収縮する性質を利用し弁を開閉するが、ワックス型に比べて水圧の影響を受けやすい。

出口制御式で82~88℃くらい、入口制御式で76~82℃くらいで作動するサーモスタットが使われる。

ウォータ・ポンプ、ファン



ウォータ・ポンプは冷却水を強制的に循環させるものである。

ウォータ・ポンプには渦巻ポンプが用いられ、インペラの回転によって冷却水を遠心力で外周に跳ね出してポンプ作用を行なっている。

ウォータ・ポンプのケース外インペラ軸先端にはファンが取り付けられ、ラジエータ側から冷却空気を吸い込み、ラジエータを流れる冷却水を冷やすと同時にエンジン本体も冷やしている。

ファンの回転、つまりポンプの回転はクランクシャフト・プーリよりVベルト(ファン・ベルト)で伝えられ、クランクシャフトの1.2~1.6倍くらいの回転速度で常時回転している。

また、故障などでポンプが回転しなくなっても、冷却水がインペラの羽の間を自由に通り抜け自然循環する構造になっていて、すぐにはオーバ・ヒートしないようになっている。

ファンの駆動には、上記のようなVベルト式とバッテリ電源によるモータ式があるが、農業機械に使われるエンジンにはVベルト式が多く用いられている。

他、ファン・クラッチを取り付けたものがあるが、エンジンが適温になるまでの暖気時間の短縮と、ファン不要時のファン騒音の低減、またはファン駆動損失の低減を目的としている。

ファン・クラッチにはオイルの粘性を利用する粘性式と、電気的にファンの回転制御を行なうマグネット・コイル式などがある。

逆流ファン
多くの大型コンバインでは、ラジエータ・コアのフィンに付着したゴミ埃を吐き出すために、定期的にファンが逆流する装置が取り付けられている。

これは、モータとフレシキブル・ホース(ワイヤ)を使って、ファン・ケース内部に組み込まれたカム機構を作動させ、ファンの羽根の角度を変える事により、風の向きを反対方向に変えている。



作成日:2007/6