農業機械で使われるガソリン・エンジンは、レシプロ・エンジン(自動車と同じ構造)で4サイクルと2サイクル(混合)に分かれる。
4サイクルは単発(単シリンダ)空冷で、バルブ方式はSV(サイド・バルブ)、OHV(オーバヘッド・バルブ)、OHC(オーバヘッド・カム)の3種類が主に使われる。
2サイクルでも単発(単シリンダ)空冷のものが主流になっているが、4サイクルのようなバルブは使われない。
◎単発ガソリン・エンジン(4サイクル)の各部名称
1.カム・ギヤ
2.ガバナ・ギヤ
3.タイミング・ギヤ
4.オイル・スクレパ(コンロッド下部)
5.クランクシャフト
6.カム
7.コネクティング・ロッド(コンロッド)
8.ガバナ・シャフト
9.ガバナ・レバー
10.タペット(バルブ・リフタ)
11.プッシュ・ロッド
12.シリンダ・ヘッド・ガスケット
13.バルブ
14.ピストン
15. クーリング・フィン
16.イグニション・コイル
17.磁力板(15のフライホイールに貼り付けてある磁石の板)
18.スタータ・プーリ
19.フライホイール
20.ドレン・プラグ
21.ベアリング
22.オイル・シール
23.出力軸
上記図は一般的なOHV方式の汎用エンジンの例で、大まかに各部名称を列挙したものである。
◎単発ガソリン・エンジン(4サイクル)の各部役割
4サイクル・ガソリン・エンジンは、4サイクル・ディーゼル・エンジンと同様にインテーク・バルブ(混合気を吸い込む弁)とエキゾースト・バルブ(燃焼ガスを吐き出す弁)があり、一つのシリンダに対してインテークとエキゾーストの両方のバルブを1本づつ設けている2バルブ式のものが多く使われている。
また、過給機(ターボ)がないエンジンで高出力をを出す3バルブ式、4バルブ式もあるが、農業機械で使われるガソリン・エンジンは2バルブ式のものが殆どである。
エンジンの温度上昇に伴って各部品は膨張するので、バルブが突き上げられガス漏れを防ぐためバルブ・クリアランスを設け、エンジンの運転温度に適正な隙間を保つようにしてる。
バルブ・クリアランスとは、バルブが閉まっている時のバルブとロッカ・アームとの遊び(隙間)の事である。
バルブ・クリアランスはエンジンの形式、バルブの材料、カムの形状などにより異なるが、一般に吸入より排気のほうが熱をもつので排気バルブのクリアランスを多くとる。
(例) 吸入0.1 排気0.15
クランクシャフトは爆発行程のみ大きな回転力を与えられるので、その他の行程では逆に回転を止めようとする力が働く。
従って、シリンダ数の少ないエンジンでは低速回転が出来なくなるので、フライホイールを取り付け、その慣性を利用し円滑な回転を得るようにしている。
フライホイールは回転中の慣性が大きく、その重量を出来るだけ軽くするため中心に近い部分の肉厚を薄く、周囲は厚く、エンジンを冷やすために鋳鉄のファンがついている。
中心にはリコイル・スタータのツメがかかるカップ(スタータ・プーリ)がつく。
セル・モータ付きなら周囲にリング・ギヤが付いている。
シリンダとは、ピストン・ストロークの約2倍の長さを持ち真円筒型に仕上げられたもので、その中をピストンが気密を保ちながら往復運動をする。
エンジン運転中は2000℃以上の燃焼ガスにさらされるため、シリンダ外周には冷却装置が付いている。
空冷式と水冷式があるが、空冷式はシリンダ外周にクーリング・フィン(冷却ひれ)を設け、これにフライホイールの回転から得た風を当てて冷却する。
また水冷式は、シリンダの周囲にウォータ・ジャケット(シリンダの周りの水の入る穴)を設け、これに水を送り循環させて冷却する。
農用のガソリン・エンジンのほとんどは空冷である。
シリンダ・ヘッドは、シリンダの上に気密保持目的のガスケット(ヘッド・ガスケット)を挟んで組み付けられている。
その外部にはバルブ機構、吸排気口、スパーク・プラグなどが取り付いている。
空冷式ではクーリング・フィン、水冷式ではウォータ・ジャケットが設けられている。
クランクケースは、クランクシャフトの中心から少し下面で上下に分割され、上部は普通シリンダ・ブロックと一体に鋳造され、一般にはシリンダ・ブロックとクランクケース上部とを合わせてシリンダ・ブロックと呼んでいる。
クランクケース下部には、鋼板または軽金属で造ったオイル・パンがガスケットを挟んで取り付けられ、ここにエンジン・オイルが溜まっている。
農用の単発空冷ガソリン・エンジンではオイル・パンが無く、クランクケースがオイル・パン代わりになっている。
ピストンはシリンダ内を往復し、爆発行程で高温高圧のガス圧力を受け、その力でコネクティング・ロッドを介してクランクシャフトに回転力を与えているものである。
ピストンはアルミ合金で出来ていて、ヘッド部は2000℃以上の高温にさらされ、より膨張するためスカート部の直径より僅かに小さくなっている。
気密を保ちオイルが燃焼室に入らないように、ピストンの上部周囲は3本(草刈機など2サイクル・エンジンは1~2本)のピストン・リングを取り付けている。
このピストン・リングがはまる溝をリング・グルーブ、溝と溝の間をランド、上から第一ランド、第二ランド、第三ランドという。
また、コネクティング・ロッドとの連結にはピストン・ピンを打ち込み、スナップ・リングなどで固定している。
ピストン・リングは気密を保ち、オイルが燃焼室に入らないようにし、燃焼熱をシリンダ壁に伝え、シリンダ壁に振りかけられたオイルをかき落として必要最低限の油膜を造っている。
ピストン・リングは適度の弾性が必要なため、一部が開放された鋳鉄性または鋼製のリングでリング・グルーブにはめられている。
気密保持に使われるのはコンプレッション・リング、オイルをかき落とす役目で使われるのがオイル・リングで、一般にヘッドから2本のコンプレッション・リング、1本のオイル・リングの順で用いられる。
また、コンプレッション・リングでも少しはオイルのかきお落としをする。
ピストン・リングの取り付け
リングの合い口の向きを、それぞれ一致しないようにずらして組み付ける。(下図)
刻印がある場合(右図)は、その面を上にするのだが、とても小さな刻印なので見落とさないように注意する。
合い口の向きが、ピストンの側圧方向(ピストンがシリンダ壁を押す方向、クランクシャフトの軸方向)に向かないように注意する。
ピストンの外周にエンジン・オイルを塗り、ピストンの組み付け方向を間違えないようにセッティング・ツールを使って、木などで頭部を軽く叩きながらシリンダ内に入れる。
コンロッドは、ピストンとクランクシャフトを連結しているもので、ピストン側(ピストン・ピンに支持される部分)を小端部(スモール・エンド)、クランク側(クランクシャフトに結合される部分)を大端部(ビッグ・エンド)という。
ビッグ・エンドには分割型平軸受が用いられ、軸受にコンロッド・ベアリング【ベアリング・メタル(ホワイト・メタルまたはケルメット・メタルを溶着したもの)】を摩擦部(ビッグ・エンド)にはめ込んである。
小型エンジンは、ブッシュやコンロッド・ベアリングがないものが多い。
コンロッド内部は油路(オイル・ジェット)が作ってある。
クランクシャフトは、クランクケース内に設けられたメイン・ベアリングに支えられていて、ピストンの往復運動を回転運動に変えるための機構である。
爆発行程以外の行程では逆にピストンへ運動を与え、連続した動力を発生させている。
一般に多気筒エンジンでは、フライホイ―ルはクランクシャフトの後端に取り付く。
またウォータ・ポンプ、オルタネータ(発電機)などを駆動するクランク・プーリは、クランクシャフトの前端に取り付く。
農用の多くの単発空冷ガソリン・エンジンにウォータ・ポンプやオルタネータなどは無いが、クランク・プーリはVベルトを介して様々な機械に動力を伝達する役割がある。
つまり、多気筒エンジンではフライホイール側が動力伝達側で、単発エンジンではタイミング・ギヤ側が動力伝達側になる事が多い。
タイミング・ギヤ(クランク・ギヤ)とは、カム・ギヤと噛みあい、バルブを定められたタイミングで確実に開閉させる役目があり、カム・ギヤはタイミング・ギヤの2分の1の歯数になっている。
つまり、クランクシャフトの回転数の2分の1で回転する。
組み付け時は、右図のように合いマーク(刻印)を合わせて組み付ける。
ガバナとは自動調速機で、単発空冷エンジンによく使われているのは遠心式ガバナである。
ガバナ・ギヤ中心に対して垂直に伸縮する芯軸を設け、その芯軸にオモリを2つ付けたものが、高回転でガバナ・ギヤが回るとオモリが遠心力で外に開き、芯軸は一杯まで伸びる。
キャブレータのスロットル・バルブからロッド(ガバナ・レバー)を介して、クランクケース内のガバナ芯軸の先端に触れるようにガバナ・シャフトを設け、エンジンが高回転の時は、芯軸は一杯まで伸びようとするのに対し、ガバナ・シャフトが逆に芯軸先端を押そうとし、互いにバランスを取りエンジンが高回転になり過ぎないようにしてる。
ガバナ・ギヤは、タイミング・ギヤと噛み合っている。
芯軸等はオイルの通り道の穴が空いている。
自動車のディストリビュータ内にあるガバナとは目的はほぼ同じだが仕組みが大きく違う。
ガバナの調整について
エンジンが異常な高回転になる時のみ調整する。
キャブレータが正常で運転可能な状態にて、スロットル・レバーを最低回転位置にし、ガバナ・レバー下部のボルトを緩め、ガバナ・シャフトをマイナス・ドライバで右へあたるところまで回して、ガバナ・レバー下部ボルトを締めて固定する。
エンジンを始動しスロットル・レバーを最高回転位置にして適正回転になるか確認をする。
殆どの場合は、このようにガバナ軸をあたるところまで回して固定すれば適正な調整が取れる。
そうでない場合はエンジンを止め、上記同条件でガバナ・シャフトをほんの僅か左に回して固定して、再びエンジンを始動し確認する。
これを繰り返し合わせる。
回転計を使うと正確に合わせられるが、ないとエンジン音を聞いて判断するしかない。
また、エンジン最高回転数は、スロットル・レバーの回転角を止めているアジャスト・ボルト(スクリュ)を調整し、スロットル・レバーの回転角を広げることで上がるが、通常は触る必要はない。
上記の通り調整が出来るエンジンは、以下の場合である。
ガバナ・シャフトを正面から見て、右上ににキャブレータとスロットル・レバーがある。
左にガバナ・ギヤが組まれてるベアリング・ケースがある。
他の場合は、ガバナ・シャフトをどちらか一杯に回して固定しエンジン始動させ、いきなり高回転になるならば逆という事で、ガバナ軸を反対に一杯回してからやり直す。
そして、同様に回転が適正になるまでガバナ・シャフトを少しずつ回して調整する。
エンジン・オイル
エンジン・オイルとは、エンジン運転中多くの固体摩擦があるが、その固体摩擦を極めて小さい油の流体摩擦にして減摩し、スムーズにエンジンが運転出来るようにするものである。
農用の単発空冷ガソリン・エンジンは自動車同様#30くらいを使うが、オイル・エレメントは自動車と違いないものが多い。
→詳しくはオイルのページへ
エンジン運転中は、燃焼室よりクランク・ケース内にある程度の排気ガスや混合気が漏れて入り、ガソリン、燃焼ガスの水分、熱などの影響でエンジン・オイルは薄くなったり変質してスラッジを生じる。
そして、このガスの中には多くの炭化水素(HC)を含み大気汚染の原因となるから、再び強制的に吸気系に戻し、キャブレータを経て燃焼室に送り燃焼させる必要がある。
そのガスを吸気系まで送るために取り付けたホースがブリーザ・ホースである。
所謂、ブローバイ・ガス還元装置である。
単発空冷エンジンでは、シリンダ・ヘッド・カバーなどからエア・クリーナ・ケースへブリーザ・ホースを取り付けている。
また、エンジン内にかかる内圧を逃がす役目もある。
エンジンを運転するには、1リットルのガソリンに対して10m3に近い空気が必要で、この空気には多くの埃など異物を含んでいる。
この異物を取り除く役目をしてるのがエア・クリーナで、乾式、湿式、半湿式がある。
エア・クリーナがないと細かい異物などでシリンダ壁を傷付け、さらにエンジン・オイルに混ざりベアリングなどの磨耗を早めエンジンの寿命を縮める。
マフラとは、エンジンから排出される排気ガスの温度、圧力、騒音を低下させるものである。
マフラ排気口が詰まると出力低下の原因になる。
また、排気ガス中の有毒なCO、HC、NOxを無毒なCO2、H2O、N2にする触媒コンバータは、農用の単発空冷ガソリン・エンジンにはない。
キャブレータとは、エンジンの運転状態に合わせて空気と燃料(ガソリン、または混合ガソリン)とを適当な割合に混合し、同時に燃料を微粒化しエンジンに供給するもので、気化器と呼ばれている。
ガソリンを完全燃焼させるには、理論的な重量にして空気15に対してガソリン1の混合割合が必要で、燃焼可能の混合比範囲は空気が8~20の間である。
冷えているエンジンの始動は、混合気を濃くする必要がある。
単発空冷ガソリン・エンジンの多くは、キャブレータとシリンダ・ブロックの間にガスケットやインシュレータ(黒色の緩衝材のようなもの)が取り付くが、多くが前後で穴の大きさや向きが決まっているなど特徴があるので、キャブレータを組み付けるときは気をつける事。
キャブレータの外し方…フロート式
→キャブレータ掃除はこちらから
長期間(4~6ヶ月以上)エンジン使用しない場合は、なるべく燃料を抜いておく。
燃料コックのストレーナ・カップを外して抜いた後、フロート・チャンバ・ケースの燃料抜きドレンからキャブレータ内に残った燃料も抜いておく。
イグニション・コイルとは、鉄心に一次コイルと二次コイルを巻いたものをケースに収め、固定、絶縁のために周囲にコンパウンド、又は絶縁油、エポキシ樹脂を充てんしていて、スパーク・プラグの中心電極と接地電極の間に強い火花を飛ばすための装置(誘導コイル)である。
イグニション・コイルは、下図例のようにフライホイールの外周、または内周に取り付けられ、フライホイールが回転することによって、フライホイールに取り付けられている磁力板とイグニション・コイルとの間で起電し、その低電圧電流は一次コイルから二次コイルで高電圧電流になり、その高電圧電流はプラグ・コードを介してスパーク・プラグで火花放電する。
点火装置としては、バッテリ点火とマグネット点火がある。
農用の4サイクル、2サイクル・エンジンはマグネット点火で、フル・トランジスタ方式やCDI方式を多く用いている。
最近では、CDI方式で点火時期をマイコンで制御し、全回転域で最適な点火をさせ燃焼させるものがある。
これは主に2サイクル・エンジンでよく使われる。
→点火装置の詳しいページへ
スパーク・プラグは、イグニション・コイルで発生した高圧電流を中心電極に受けて、接地電極との隙間に火花を発生させ、燃焼室内で圧縮された混合ガスに点火するものである。
スパーク・プラグは耐熱性、絶縁性、気密性を維持させ、電極部が受けた高熱を他へ放熱するものでなければいけない。
電極部の隙間は0.6~8mm程度であれば良く、プラグの締め付けはガスケットがシリンダ・ヘッドに当たってから、1/2~3/4回転締め付ければ良い。
メンテナンス・フリーの白金プラグやレース用プラグなどもあるが、農用の単発空冷ガソリン・エンジンで使うことはない。
熱放散の度合いを数値で示したものを熱価といい、高熱用、中熱用、低熱用とあり、一般に単発空冷4サイクル・エンジンでは、B6HS(NGK)などの中熱用を用いる。
電極部の放熱が悪いと、この部分が熱源となり早期着火を起こす。
また、放熱し過ぎて電極部の温度が低すぎると、燃焼時に生じたカーボンがガイシ(中心電極の周り)に付着して絶縁不良となり、この部分がリークして電極部で放電しなくなる。
スパーク・プラグの火花の確認
スパーク・プラグをシリンダ・ヘッドから外し(正ネジ)、プラグ・キャップを取り付ける。
スパーク・プラグのハウジング部(金属部分)をシリンダ・ヘッド、またはシリンダ・ブロックに接触(アース)させ、リコイル・スタータを強く引く。
この時、青白い火花が途切れず発生すればOKと判断する。
CDI点火方式は火花が細い(短い)。
点検時の注意点、備考
交換時の注意点、備考
燃料コックとは、燃料タンクから落ちる燃料を止めたり通したりするもので、ろ過器(フィルタ)付のものが多い。
一般に、フィルタは燃料タンクの燃料落ち口、燃料コック内、キャブレータと燃料ホースの繋ぎ目のいずれかにあるが、燃料ポンプが付いたものは、タンクとポンプの間に取り付けてある。
また、大きなエンジンなどでは2~3個フィルタを設けたものもある。
燃料コックの掃除
右図(コック開閉レバー省略)のような燃料コックでは、キャップを外し(右ネジ)、ストレーナ・カップ(ゴミ溜まり部)、フィルタ、出入り口穴をキャブレータ・クリーナなどで掃除しする。
取り付けは、フィルタ穴がしっかり中心にくるように、またパッキンとフィルタが歪んだまま組み付けないようにする。
燃料コックの多くはこの流れであり、ゴミ溜まり部側面に燃料が漏れる場合は、パッキンが劣化してるか、しっかり組まれてないかである。
コック開閉レバーから漏れる場合はレバー・パッキンの劣化が原因になるが、燃料コックごと交換したほうが賢明である。
燃料の出入り口が逆のものでも、掃除する箇所は同じである。
組付け後、エアが入り燃料が落ちないことがある。
強制的にエアを抜くには、液体は高い所から低い所に向かって落ちるから、出口ホースを外し下に向ける、もしくはコックを開いたままキャップネジを緩めれば良い。
燃料ホースが破れたりした場合は、純正ではないが右写真のもので十分なので交換する。
修理屋はもちろん、ホームセンターにでもm売リだが安価でおいてある。
穴径は数種類あり、取り付けに関してある程度融通が効くが、大き過ぎた場合は限度があるが、針金で絞って固定する事も出来る。
当たり前だがマフラなど高温にさらされるようなところは避けて取り付け、取り付ける側がプラスチックの場合は折らないように注意する。