田植機は、水稲の苗を決まった条間と株間で強制的に植え付けていく機械で、歩行用と乗用があり、またそれぞれマット苗用とポット苗用がある。
マット苗とポット苗では植え付け時に適した葉令が違い、それぞれ専用の育苗箱を使う。
マット苗では主に稚苗(2~2.5葉)~中苗(3.5~4.5葉)の苗を植え付け、ポット苗は主に中苗~成苗(5~6葉)の苗を植え付ける。
現在、マット苗用の田植機が多く使われているが、他には独自の方式で専用の育苗箱を使うみのる式がある。
乗用田植機は4~6条植えが多く使われるが、農業法人向けでは折り畳み式の8~10条植えがある。
また、歩行用では主に2~5条植えが使われる。
そして、乗用田植機のアタッチメントとして、施肥装置や除草剤散布機を取り付けたものなどがある。
田植機は、歩行用も乗用も殆どのものが4サイクル・ガソリン・エンジンを動力としているが、6条以上の大型田植機ではディーゼル・エンジンを動力としているものもある。
◎一般的な田植機の各部名称
1.エンジン / 2.センタ・ポール(マスコット) / 3.ブレーキ・ペダル / 4.主変速レバー / 5.ステアリング / 6.油圧(植付)レバー / 7.油圧感度調節(フィット・センサ)レバー / 8.条止めレバー(畦際クラッチ) / 9.苗載せ台 / 10.苗押さえ(苗ステー) / 11.植付アーム / 12.フロート / 13.摺動板(エプロン)ガード / 14.ライン・マーカ / 15.副変速レバー / 16.ワン・タッチ作業レバー / 17.クラッチ・ペダル / 18.タイヤ / 19.隣接マーカ / 20.苗補給センサ / 21.苗送りベルト / 22.延長板 / 23.苗ストッパ / 24.苗押さえ棒 / 25.摺動板(エプロン)
他…植付本数調節レバー、植付深さ調節レバー、株間ギヤ、横送り装置、油圧装置
上記図は一般的な田植機の例 で、大まかに各部名称を列挙したものである。
乗用田植機の始動には、急に動いたりするのを防ぐため一般に安全装置としてセーフティ・スイッチを設けている。
セーフティ・スイッチはクラッチ・ペダル下に取り付けていることが多く、クラッチ・ペダルを踏み込まないとエンジン始動出来ないようになっている。
現在主流のブレーキ・ペダルしかないものは、ブレーキペダルを踏み込む。
セーフティ・スイッチは、一般にキー・シリンダのST端子とセル・モータのS端子間に設けていて、スイッチが入る(導通する)とセル・モータが回せる状態になる。
他、セーフティ・スイッチは変速レバー元に取り付けたものなどあり、ニュートラルにしたときにスイッチが入るようになっている。
この場合はニュートラル・スイッチと呼ぶ。
始動手順…4サイクル・ガソリン・エンジンの始動、故障診断とその対処
注意、備考
田植機は翌年の田植え時期まで約1年間使用しないため、正しい保管をしないと再使用時にトラブルが起き易くなる。
長期保管の仕方
過去の記載→第3回:ガソリン・エンジンの燃料の抜き方
エンジンからの動力はメイン・クラッチを経て、トランスミッションのギヤで変速、減速され、さらに前後輪車軸ケースでも減速されて4輪に伝達される。
メイン・クラッチは、自動車同様シートに座って左足側にあるが、その動力伝達の種類はトランスミッション・ケース(ギヤ・ケース)内に常時ギヤ・オイルに浸されている湿式クラッチや、エンジンからトランスミッションへコグ・ベルトやVベルトを使い、テンション・プーリでベルトを張ったり緩ませたりするベルト式クラッチなどがある。
しかし、最近では1つのブレーキ・ペダルのみ設けて、メイン・クラッチ(クラッチ・ペダル)が無い田植機が増えてきている。
これは、後項(ブレーキ、トランスミッション)にて説明する。
サイド・クラッチ
乗用田植機の後輪は、トラクタとは違い作動装置(ディファレンシャル・ギヤ)を設けていないものが多くある。
これは、後輪車軸ケース内に左右それぞれサイド・クラッチを設けて、旋回時に旋回側のブレーキ・ペダルを踏むことによって、内側の車輪のサイド・クラッチが切れてニュートラル状態になりスムーズに旋回することが出来る。
後輪車軸ケースは、大きく分けてシャフト・ピニオン、ベベル・ギヤ、サイド・クラッチ、湿式ディスク・ブレーキ、ファイナル・ギヤなどで構成されている。
ブレーキは乾式と湿式があり、現在は常時油に浸されている湿式ディスク・ブレーキが主流である。
一般に、ブレーキ・ペダルを踏み込むと最初にサイド・クラッチが切れ、更に踏み込むとブレーキがかかる構造になっている。
ブレーキ・ペダルはトラクタと同じで左右に分かれていて、道路走行、運搬時は左右のペダルを連結し、圃場では連結を解除する。
しかし最近では、ワン・ペダルのブレーキしか設けていない田植機が増えてきている。
ブレーキ・ペダルがシートに座って右足側に1つあるだけで、旋回時には従来のようにブレーキ・ペダルを踏む必要がない。
これは、ステアリングを回すだけで自動的に内側の車輪のクラッチが切れ、更にブレーキがかからない構造になっているので、枕地を荒らさず無駄の少ない旋回ができるようになっている。
通常、ブレーキ・ペダルを踏み込むと、主クラッチが切れブレーキがかかる構造になっている。
サイド・クラッチの調整…右図例の場合
後輪車軸ケース内、左右それぞれにサイド・クラッチ、湿式ディスク・ブレーキが設けてあり、使用時間過多などにより調整が必要になる。
メイン・クラッチ回りに異常がない状態において、車輪に大きな負荷がかかったときに車輪が回転しない症状は、クラッチ・ディスクのフェーシングが極端に摩耗している、若しくは剥離している可能性があり、調整では症状が改善されないことが多い。
その場合は、分解しサイド・クラッチを交換する必要がある。
また、ブレーキを踏み込んでもサイド・クラッチが切れない、内側ブレーキを踏み込んでいるのに旋回し難い症状は、調整で症状が改善される事もあるが、後輪車軸ケース内でサイド・クラッチが膠着している、又はクラッチ・アーム等が破損している可能性もある。
そして、ブレーキ・ペダルを踏み込んでもブレーキが効かない、坂道で駐車ブレーキをかけても止まらない症状は、サイド・クラッチの調整よりブレーキを確認(分解修理、又は調整など)する。
範囲外であれば、クラッチ・ロッドのアジャスタを調整して遊び量を範囲内にする。
田植機のトランスミッションは前輪車軸ケースと繋がっていて、湿式クラッチ、走行変速ギヤ、ディファレンシャル・ギヤ、植付株間変速ギヤ、パワー・ステアリング・システム(外付けあり)などで構成されている。
そのため、ギヤ・オイルは作動油も兼ねているので#80W、90などの専用オイルを使用する。
田植機は常時4輪駆動だが、後輪への動力伝達はトランスミッションから後輪車軸ケースへシャフトを介して行われる。
また、植付部への動力伝達もトランスミッションからシャフトを介して行われる。
走行変速
田植機の変速装置は、トランスミッション・ケース内で機械的にギヤを噛み合わせての変速と、トランスミッション・ケース外でプーリやベルトを使った変速との組み合わせが多く使われている。
例えば、主変速はギヤの噛み合わせで植付(1速)、走行(2速)、R(後進)の切換が出来て、副変速は2本のベルトを使い、低速と高速の2段の切換が出来るなどである。
現在、トランスミッション内の湿式クラッチで動力を断続させて、クラッチを繋いだままでも段のない変速が可能な装置を、主変速または副変速に設けているものが主流である。
これは右図のように、運転中エンジンからトランスミッションへ常時コグ・ベルトが回転して動力伝達させ、プーリの幅を自在に変えて回転数を変更できるベルト式CVTである。
ベルト式CVTには電子制御されたものがあり、アクチュエータを制御してプーリ幅を自在に変えるものなどある。
しかし最近では、クラッチ・ペダルが無く、ブレーキ・ペダルのみ設けた田植機が主流になりつつある。
これは従来までのベルト式CVTとは違い、HST(油圧式無段変速装置)やHMT(油圧-機械式無段変速装置)を使い、完全ノーペダルで主変速レバーを倒すだで前後進できるようになっている。
通常、ベルト式CVTは常にベルトが同じ回転方向で回転し続ける。
そして、前進から後進に切り換えるにはギヤ・チェンジしないといけないことから、どうしても一度クラッチを切らないといけない。
しかし、HSTでの前後進の切り換えは、主変速レバーと連動させて油の流れを変え、油圧モータの回転を逆にするだけなのでクラッチを切る必要がない。
また、HSTはブレーキ・ペダルを踏み込むと、連動して主変速レバーが中立位置に戻るようになっている。
これは、主変速レバーを中立位置にすると油圧モータの回転は止まるが、油圧が抜ける訳ではないので、ブレーキ・ペダルから足を離しても坂道で自然に下がることがないようになっている。
HSTは、クラッチ・ペダルを必要としないノークラッチ無段変速走行が出来て、さらに変速による衝撃がなく超低速走行も可能で、田圃への出入り(畦越え)がし易いのが特徴である。
また、無段変速とエンジン回転を連動させたものがあり、これはアクセル・レバーがなくエンジン回転が変速に応じて自動で変化するようになっている。
植付クラッチとは植付部を作動させるためのクラッチで、通常植付レバーを入れるとクラッチは繋がるが、人力と機械的なリンク機構で作動させるものと、スイッチやモータを使って作動させるものがある。
一般に植付クラッチはドグ・クラッチになっていて、トランスミッション内で株間ギヤ部に取り付き、ギヤ・オイルによって保護されている。
植付クラッチが繋がると、トランスミッションと植付部に連結されたシャフトが回転するので植付部は作動する。
田植機には、植付部に石などの異物を噛み込んだときに、植付装置を保護する安全装置(トルク・リミッタ)が取り付けられている。
走行停止時での植付確認方法
株間切替レバーが何れかに入っていることを確認してから(通常は一度入れたら触らないのでニュートラルにはなってない)、エンジンを始動し植付レバーを上げ、苗載せ台を最上げ位置に固定しアイドリング状態にする。
そして、苗載せ台落下速度調整弁(油圧ロック弁)を完全に閉めてから植付レバーを植付位置にする。
若しくは、摺動板ガードを立ててから、植付レバーを下げ苗載せ台を下げて植付位置にする。
一般に、主変速と副変速が共にニュートラルでは植付部が作動しないので、主変速か副変速のどちらかを植付(1速)、または低速に入れ、植付部が作動する状態にする。
どちらを入れるべきかは田植機により違う。
当たり前だが、両方(主変速、副変速)とも入っていると走行してしまうので注意する。
植付クラッチの調整
右図例のような方式において、植付レバーを切ったときはワイヤが引っ張られ、クラッチ・アームが左方向に動くので植付クラッチが切れる。
また、植付レバーを入れるとクラッチ・アームは右方向に動くので植付クラッチが入る。
これは、トランスミッション内で植付クラッチ(ドグ・クラッチ)がスプリングで押され続けているので、仮にワイヤが無い場合には常時繋がっているということになる。
右図のような方式において、植付部が動かない原因は、主にワイヤの膠着、ワイヤのアジャスタ調整不良、クラッチ・アームの膠着などである。
また、植付部が止まらない原因は、主にワイヤの断裂、ワイヤのアジャスタ調整不良、クラッチ・アームの膠着などである。
点検中、植付部のプランタ回り(エプロンと植付爪の間)には絶対に手を近づけないようにする。
突然動き出す可能性があり危険である。
調整は以下の要領で行う。
株間ギヤは植付部を作動させるギヤであり、植え付けする進行方向の苗と苗の縦幅(株間)を決めている。
一般に、株間ギヤはトランスミッション内で主変速ギヤ、ベベル・ギア(PTO部)などと噛み合い、外部から数段階のギヤの切換が可能になっている。
田植機に組み込まれている株間ギヤは3.3㎡当り60株前後植え付ける仕様のものが多いが、ギヤを入れ替えることによって疎植(荒植え)に出来るものなどがある。
また、横幅である条間は予め全ての機械が30㎝と決まっているので変更できないが、一部北海道向けに33㎝のものもある。
田植機が圃場を走行すると、少しずつスリップすることからスリップ率を設けている。
一般にスリップ率は5~10%くらいあるので、ラベルで表示されてる株間より実際は狭くなる傾向がある。
これは、圃場の条件によって多少変わる。
条間30㎝使用の株間
3.3㎡当り株数 / 株間(㎝)
90/12 80/14 70/16
60/18 55/20 50/21 45/24
パワー・ステアリングは旋回時のステアリング操作を楽にするもので、油圧ポンプから圧送されるオイルで動力を得ている。
田植機のパワー・ステアリング装置は、 インテグラル型でトルク・ジェネレータを使ったものが比較的多く使われる。
例えば、ステアリング・コラムの中間に設けられたトルク・ジェネレータを使いステアリング・ギヤ・ボックスを作動させる事で、ピットマン・アームやタイロッドなど機械的な接続を介して旋回するものである。
トルク・ジェネレータは、油圧による大トルクを生み出す装置である。
田植機のステアリング・ユニット(ギヤ・ボックス)は、トランスミッションの中に設けているものと外に設けているものがある。
油圧装置は主に苗載せ台の昇降装置として使われ、油圧ポンプを使って作動油を昇降シリンダなどに圧送させている。
油圧ポンプはトランスミッション側面などに取り付けられ、右図例のようなベルト駆動とトランスミッション内でのギヤ駆動があり、パワー・ステアリングの動力や苗載せ台を上げる動力を生み出し、HSTでは油圧モータへ作動油を供給するなどしている。
トランスミッション・ケースを油タンクとしているので、ギヤ・オイルが作動油の役目も兼ねている。
トラクタで使用しているミッション・オイルと同じもので良い。
一般に、エンジン運転中油圧ポンプが回転すると、ギヤ・オイルはトランスミッション・ケースからオイル・フィルタを経て油圧ポンプへ吸入され、油圧ポンプから排出され続けるオイルは油圧配管を経由してコントロール・バルブに圧送される。
コントロール・バルブとは、上昇、下降回路へ流れるオイルの流量を制御するもので、コントロール・バルブに圧送されたオイルは以下の状況で流れが変わる。
油圧回路は安全かつ機器を保護するため、メイン・リリーフ・バルブを設けて最高圧力を制限している。
一般に、田植機の油圧回路の最高圧力は約140㎏f/㎝2である。
田植機によっては、マイコンで自動制御された油圧装置が使われる。
一般には、コントロール・バルブに電磁弁(ソレノイド・バルブ)を設け、その作動条件の検出として各センサなどの電気信号(電圧)をマイコンで計算し、コントロール・バルブ内のオイルの流量を自動制御するものである。
油圧ロック弁
油圧ロック弁は、油圧回路を閉じて苗載せ台の落下を防止するものである。
油圧ロック操作には、レバー式とダイヤル式がある。
通常、ダイヤル式では右へ一杯回してロックされ、左へ一杯回して油圧が開放される。
植付作業時は左へ一杯回した状態(全開)で使用する。
一般に、油圧ロック弁はコントロール・バルブに取り付き、シートの横や下辺りに設けていることが多い。
植付装置は、苗載せ台に載せたマット苗を決まった間隔で掻き取り、圃場に植え付けていくものである。
マット苗の植付機構は、右図のようなクランク式とロータリ式がある。
ロータリ式は、クランク式に比べ同じ回転速度なら2倍の植付能率になるが、実際の圃場での作業能率は1.5倍程度である。
これは、回行時間や苗補給時間が大きく違わないためである。
植付爪
植付爪は苗を掻き取り、植付フォークは苗を植え付ける役目がある。
また、植付爪は各メーカ独自の形をしたものを採用している。
植付爪の種類と特徴
植付爪の交換時期、目安
植付爪は使用時間過多により、苗や圃場の泥水との摩擦で右図のように先端が磨耗する。
先端が摩耗すると、苗を掻き取る能力が低下して欠株の原因となり、さらに植付状態も悪くなる。
右図のようなタイプ(クボタ、ミツビシなど)では、先端と苗を挟み込む内側が磨耗する。
また、植付爪が細い鋼線タイプ(ヤンマー、イセキ)のものは、磨耗すると尖った先端部が丸くなってくる。
植付爪は、石などを噛み込むと変形したり折れたりするので、その場合は修正ではなく交換したほうが良い。
植付フォーク
植付フォーク(プッシュ・ロッド)は、植付爪で掻き取った苗を圃面に植え込む役割がある。
一般に、植付フォークの先端はコの字の形をしていて、植付爪に沿って上下動し、植付爪とは各メーカ規定の隙間を設け、より最適に植え付けるように工夫されている。
植付フォークは、植付爪が圃面に入った時に「バチン」と強制的に押し出す方式のものが主流だが、エンジン回転や無段変速に比例した速さで植付アームが作動して植付フォークを押し出すものが殆どである。
植付フォークは、カムやスプリングによって押し出す構造になっている。
植付フォークの交換時期、目安
植付アーム内部のカムやスプリングは、オイルまたはグリースによって保護されているので、右図のようにオイル・シール(ダスト・シール)を設け外部から泥水の浸入を防いでいる。
使用時間過多になると、オイル・シールが劣化し外部から泥水が浸入するようになり、植付フォークの芯棒が腐食し、がたつきが生まれてくるようになる。
さらにはオイルが漏れ、内部のカムやスプリングも泥水にさらされ腐食してしまう事になる。
また、植付フォークの先端部は苗や泥水との摩擦で摩耗してくる。
摩耗が酷いと、苗を正しく植え付けすることが出来ず、浮き苗や転び苗になり易くなる。
したがって、植付フォークの芯棒から油が漏れている、指で植付フォークを触るとがたつきがある、そして先端部が著しく磨耗してる場合は、植付アームを分解し状況に応じて部品(植付フォーク、スリーブ、オイル・シールなど)を交換する必要がある。
また、
植付アームは、オイル潤滑のものとグリース潤滑のものがある。
使用するオイルやグリースは、各メーカによって多少の違いはあるが、どれもギヤ・オイル(#80~90)で大抵は問題がない。
グリースは植付アーム専用のものがあり、各メーカなどから販売されている。
ミツビシ用植付爪と植付フォークの調整
三菱田植機は、植付爪と植付フォークがそれぞれ個別に微調整できる。
右図の寸法で調整する。
初めに、植付爪の苗取り量が各条同じになってるか確認する。
これは、後項(各条個別の苗取り量の調整)の「5.」の方法で行える。
違ってる場合は、植付爪を固定してるボルトとナットを緩め、植付爪の苗取り量を各条とも同じにしてから、ボルトとナットを締めて固定する。
植付爪が最も下がったときの、植付爪と植付フォークのaの寸法を植付フォークを固定しているナットを緩め調整する。
植付フォークを固定しているナットを締めるとき、b,cの隙間を調整し、植付爪と植付フォークが強く接触しないようにナットを締め付け固定する。
最後に、指で植付フォークを摺動させスムーズに動くか確認する。
苗の取り量が各条ごとに違うと苗の減り方も違ってくるので、各条とも同じに合わせる必要がある。
一般に、植付アーム(プランタ・アーム)を調整することによって、苗取り量を合わせることができるタイプのものが多い。
右図例のようなタイプは、以下のように調整する。
過去の記載→第9回:田植機の苗取り量の調整について
苗取り口
植付爪と摺動板の苗取り口との隙間は、右図例のように規定量に保つ必要がある。
通常、苗取り口を通過する植付爪が、左右どちらかに横ズレする事は少ないが、横ズレしてどちらかに片寄った場合は、所定の方法で植付アームを横にずらして、植付爪が苗取り口の中心にくるように調整する。
植付アームを横にずらす方法、つまり間隙量の調整は、調整ボルトを回す、シムを入れる抜くなど各メーカ、各機種により様々である。
尚、田植機によっては調整不可能なものがある。
右図例のように多くの田植機には、苗取り口にサポートが取り付けられている。
サポートは使用時間過多になると、苗や泥水との摩擦で摩耗してくる。
植付本数調節レバー(苗取り量調節レバー)
前項(各条個別の苗取り量の調整)の苗取り量調整は各条ごとの調整だが、植付本数調節レバーは、右図例のような全条分の苗取り量を一括で調節できるレバーである。
一般に、シート後部の苗載せ台フレームの左右どちらかに設けてある。
そして、植付本数調節レバーは摺動板(エプロン)とロッドを介して繋がっていて、レバーを動かすと摺動板が上下に動く構造になっている。
植付本数調節レバーを「多い」のほうにすると、下図例にように摺動板が下がるので植付爪の掻き取る量が増える。
また、「少ない」のほうにすると、摺動板が上がるので植付爪の掻き取る量が減る。
横送り装置とは、苗載せ台を端から端へ横に往復移動させるものである。
通常、苗載せ台の横移動する速さをギヤで変える事で、その片道移動の間に、植付爪の苗を掻き取る回数が変わるようになっている。
横移動が速い分だけ苗を掻き取る回数は少なくなるので、苗を掻き取る回数が20回と26回なら、20回のほうが26回より速く横移動することになる。
横送りギヤは他に16回、18回、30回などがあるが、20回と26回の2種類を標準で設けたものが多い。
苗の生育状態によって適した掻き取り回数は以下のとおりである。
16回…マット成苗、ポット成苗
18回…マット成苗、中苗
20回…中苗
26回…稚苗
30回…乳苗
苗載せ台は、下フレームの摺動板寄りに設けた3~4個のスライド・ピース(樹脂の台受け)と、上フレームに設けた2~3個のスライド・ピースで支持されながら左右にスライド移動する。
苗載せ台を円滑に移動させるため、スライド・ピースにはグリースが塗布されている。
横送り装置の作動例
右図例のような横送り装置では、回転する横送りシャフト上を、苗載せ台と連結されたブロックが左右に移動することで、苗載せ台は横送り移動する。
横送りシャフトには、らせん状の溝が両端から交わるように掘ってあり、ブロック内部には、その溝にはまるように突起部が設けられている。
ブロック内部と横送りシャフトには、グリースが塗布され滑らかに移動するようになっている。
植付クラッチが入るとPTOシャフトを介してベベル・ギヤが回転するので、駆動シャフトも同様に回転する。
その後、植付アームを作動させるロータリ・ケース内の駆動ギヤと、横送りを作動させる横送りギヤへ動力伝達される。
横送りギヤは、20回と26回のどちらかのギヤがドグ・クラッチで繋がっていて、その繋がっている側のギヤが回転するので、チェーンを介して横送りシャフトが回転する。
ドグ・クラッチは、外部からレバー操作が出来るようになっている。
したがって、ギヤ(掻き取り回数)の変更はレバー操作で行える。
また、ギヤの変更は各メーカ、各機種によって決まった手順があるので、必ずその手順に従って行う。
手順を無視して行うと、苗載せ台が端にきたときに苗送りベルトが作動するタイミングがずれる恐れがある。
修理などでギヤを外したりする場合は、それぞれ記しや刻印がありタイミングが決まっているので、組付け時は間違えないようにする。
当然、これらはグリースやギヤ・オイルなどで保護されている。
1反(10a)当りの苗箱の大まかな使用量は、苗の生育状態(播種量、育苗管理)、そして田植機側で苗取り量調節レバーの位置と、横送りの掻き取り回数によって変わってくる。
下記に例を挙げているが、実際には様々な条件で苗の使用量は違ってくる。
また、苗取り量調節レバーを1段変えると箱数は約6~8%増減する。
苗送り量…20回
苗の種類…中苗
苗取り量調節レバー…やや多い
株数(3.3㎡)/箱数…35株/15箱、40株/17箱、45株/19箱、50株/21箱、55株/23箱、60株/26箱、70株/30箱
苗送り量…26回
苗の種類…稚苗
苗取り量調節レバー…真ん中
株数(3.3㎡)/箱数…35株/9箱、40株/11箱、45株/12箱、50株/13箱、55株/15箱、60株/16箱、70株/18箱
苗送りベルトは、苗を端から端まで確実に掻き取るために、苗載せ台の傾斜に載せたマット苗を強制的に摺動板の上に落とす役割がある。
一般に苗送りベルトは、回転する横送りシャフトなどの端に連結された作動金具が、苗載せ台がどちらか端によった時に、苗載せ台の苗送りベルト作動部位を押し込み作動するようになっている。
苗送りベルトは、苗載せ台がどちらか端によった時のみ作動するので、
条止めレバーは、植付爪と苗送りベルトの動作を止めるものである。
畦際を植付ける時、最終の植付け条数を使用機械の条数に合わせる必要があるので、条止めレバーや苗ストッパを使って条数合わせを行う。
フロートは、4条植え以上では一般に左右と中央に3つ設けていて、植付作業では圃面との摩擦抵抗をなるべく少なく、尚且つ荒らさないように整地して、一定の深さで植え付けるように苗載せ台を安定させる役割がある。
一般に、中央に位置するセンタ・フロートには油圧感度センサが取り付いていて、圃面条件によってその感度を、シート横などに設けた油圧感度調節レバーによって行う。
また、左右のフロートは植付深さを決めている。
油圧感度調節にはワイヤ式、または電気式が使われる。
ワイヤ式は、センタ・フロートと油圧感度調節レバーを直接ワイヤと金具で繋いでいて、コントロール・バルブへは、機械的にセンタ・フロート上の金具からロッドを介して直接作動している。
電気式は、センタ・フロート上と油圧感度調節レバー下に、それぞれロッドなどで連結させた可変抵抗器を設けて、その可変抵抗器からの電気信号(電圧)をマイコンで計算して、コントロール・バルブの電磁弁を制御している。
また、油圧感度調節レバーを使わず、可変抵抗器に直接つまみ(調節ダイヤル)を取り付けて調節するものがある。
圃面状態における油圧感度調節レバーの位置
圃面での作動例…ワイヤ(機械)式
圃面の凹凸や土圧によってセンタ・フロートが持ち上がると、連結されたロッドが押し上げられるので、コントロール・バルブの油圧回路が上げ方向になり苗載せ台は上昇しようとする。
また、苗載せ台が上昇し始めたら、フロートが下がり連結されたロッドが引き下げられるので、コントロール・バルブの油圧回路が下げ方向になり苗載せ台は下降する。
油圧感度調節レバーは、苗載せ台が上昇し始めるタイミングを決めるものである。
簡単な動作確認
エンジンを始動し回転数をやや上げた状態で、油圧レバーを下げ位置にして苗載せ台(フロート)を地面に付くまで下げる。
油圧感度調節レバーを一番「軟い」方向にし、センタ・フロート前方を半分程持ち上げると同時にすぐ苗載せ台が上昇し始め、センタ・フロートから手を離したら、すぐに地面に付くまで下降すれば良い。
また、油圧感度調節レバーを一番「硬い」方向にし、センタ・フロート前方を半分程持ち上げた時苗載せ台はすぐには上昇せず、さらに一杯持ち上げたときに上昇し始め、センタ・フロートから手を離したら、すぐに地面に付くまで下降すれば良い。
以上のテストで動作確認はできるが、細かい調整(ワイヤの調整など)については各メーカ、機種により規定の調整をする。
植付深さ調節レバーを上下に動かすと、レバー下部からロッドや金具で連結された左右のフロートが上下するので、植付部の高さが変わり、植付深さを変更することが出来る。
植付深さ調節レバーは、人力で操作するものが多く使われる。
苗の植付具合は、圃面から30㎜前後植え付けていることを目安にレバー調節する。
荷重をかけた(苗載せ台が下がった)状態でレバーを操作すると、ロッドなどが変形する恐れがある。
水が深すぎたり(3㎝以上)、強風であったり、代かき不十分な場合は当然フロートが安定し難く植付深さも不規則になるので、浮き苗になり易く確実な植付は出来なくなる。